まぼろばの蒼月
004
「オメェがシャナメルか……」

ジロ、と見つめられ、竦み上がるか、と思えば、平気な顔をして、ニューゲートを見返している。

「………」
「親父……」
『………』

重い沈黙がその場に漂う。
もし、ダメだ、と云われたら、シャナメルはこの船に乗る事は出来ない。
だが、"スペード海賊団"としてなら、乗せる事は可能だ。
居室をここから向こうに移せば済むだけの話。
グルグル、と考えが巡る。
なるようになれ、だ。
今さら足掻いてもどうする事も出来ない。

「………エース」
「………おぅ」
「マルコ」
「よぃ」
「シャナメルは二番隊に所属させる。戦闘の術はマルコに教わーーー…」
『何の話?』

きょとんとした表情で三人を見つめる。

「何でェ、エースから何も聞いてねェのか。今日から、シャナメルはおれの娘になる」
『なっ!!勝手に決めないで!!ボクは、一人で生きてきた。それは今でも、これからも変わらない』
「!!」
『………火事から助けてくれた事には御礼を云います。でも一緒には行かない』
「メル!!」

シャナメルの冷たい眼差しがエースを写す。

『…邪魔になったら"棄てる"』
「棄てる……?」
『要らなくなったら"売り飛ばす"』
「!!」
『優しく手を差し伸べる振りをする。ボクは自己満足の道具じゃない』
「信じられねェか」

ニューゲートの言葉に頷いた。
そして、耳を疑う言葉が聞こえた。

『ボクは誰も信用しない』

その言葉が深く突き刺さる。
この娘は、どれだけの地獄を見て来たのだろうか。
どれだけの、荊棘の道を歩いて来たのだろうか。
人間不信に陥る迄、どれだけの人間に裏切られて来たのだろうか。
"絶望"と"諦め"を何度も繰り返し、"生きる"事に、"成長する"事に、"全て"に失望してしまった憐れな少女。
この娘の心の闇は深い。
果たして、エースが救ってやる事が出来るのだろうか。

「おれは、ンな事しねェ!!」
『皆、そう云う。でも結局、最後は"棄てる"か、"売り飛ばす"』
「しねェって云ってんだろ!!」
『信じない!!もぅ、ボクには関わらないで!!』
「メル!!」

バンッ、と、ドアを乱暴に開き、シャナメルはニューゲートの部屋を飛び出す。

「メル!!」

エースは、シャナメルの後を追うように、飛び出して行く。

「何でェ、何にも話してなかったのかよ」
「エースにしてみれば、良かれと思った事が裏目に出ちまった…って事かよぃ」

ハァッ、と盛大な溜息が漏れた。

「だが……丁度良い」

にかっ、と笑うニューゲートに、マルコは眉を顰める。

「親父…?」
「エースには"自覚が必要"なんだよ」
「自覚…?」
「シャナメルに抱いてる"感情"だ。守ってやるのはおれ達じゃねェ。エース"本人"が、シャナメルを守ってやらなきゃなんねェ。何でシャナメルを"守りたい"のか、それを自覚したら、アイツはもっと強くなる」
「親父…、嬉しそうだよぃ」
「グララララララ…。たりめーだろ。息子の成長を喜ばねェ親はいねェ」

ニューゲートは心底嬉しそうに、部屋のドアを見ていた。






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あきゅろす。
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