まぼろばの蒼月
001
モビーディック号は、朝っぱらから、賑やかである。

「シャナ。旦那はどうした?」
『ンもぅ………。エースくんはまだ、旦那じゃないったら』

朝食の準備中に、船員はニヤニヤ、と笑いながら、シャナメルに話し掛ける。
シャナメルは微かに頬を赤く染めて、カトラリーセットを並べて行く。
すると、ゾロゾロ、と、眠気覚め遣らぬ表情をする者や、朝っぱらから元気よく入ってくる者と、様々である。

「ふぁああああ……眠てェ………」

噂をすれば何とやら。
眠気覚め遣らぬ表情で、食堂に姿を見せたのはエース。
モビーディック号の食堂には、船長であるニューゲートの席、マルコ達、隊長の席が決まっている。
エースは、眠たそうに欠伸を漏らしながら、どっかり、と、何時もの席に座った。

「今日の飯は何だ?」
『クロワッサンのサンドイッチと、ポトフだよ』

ホカホカの料理が並んでいく。

「今日の昼飯は?」
『…あのね、今は朝だよ?決まってないってば。エースくんは、お昼に何、食べたい?』
「メル」
『はい?』
「メルを喰う」
『はいはい。寝惚けてないで、早く食べちゃってね』

エースの言葉を、"寝惚けている"と判断したようで。
聞き流しながら、厨房へと戻っていった。

「ちぇッ。デザートの話だったのに」
「朝っぱらからする話じゃないよぃ」

ひょい、と、エースの前に出されたクロワッサンサンドを掻っ攫うと、パクリ、と口を付けるのは、マルコ。

「ん、美味い。シャナー、おれもクロワッサンサンドくれよぃ」
「………おれのメシだろ!!毎回、毎回、コレが出ると掻っ攫う!!!」
「良いじゃねェかよぃ」
『もぅ……マルコ隊長ってば……。云うと思って、多目に作って良かった』

どうやら、クロワッサンサンドはマルコの好物らしい。
このクロワッサンサンドが、エースの前に並ぶと、必ず、と、云っても良い程、奪われるのだ。
それ故、クロワッサンサンドが朝食の場合、普段よりも多目に作る様になった。

「グラララララ……。世界政府め、旧時代の遺跡を掘り返したみてェだな」

そんな中、ニューゲートは、新聞を拡げながら呟く。

「旧時代の遺跡をかよぃ」
「そうだ。"ロジャーが手に入れられなかった財宝"を手に入れる事により、世界政府の力を見せつけてェのさ」
「……………」

海賊王、ゴール・D・ロジャーが、この世の全ての財宝を手に入れた、とされているが、ただ1つだけ、手に入れる事が出来ない財宝があった。
それは、海に沈んだ、旧時代の都市"アトラティカ"に眠る財宝である。

ーーーーーー……旧時代。

それは、大航海時代の前の時代。
別名"旧時代"もしくは、"魔力時代"。
その時代には、悪魔の実は無く、魔法と呼ばれる悪魔の実と類似した能力が使えた時代。
人々は、己が力を誇示するが為に、他国への侵攻を重ねた結果、内乱が勃発、滅亡の道を辿っていく。
そして、栄え過ぎた時代は、急激に衰退していった。
今、この時代に残るのは、遺跡だけ。

「けどよぃ。アトラティカの財宝は手に入れられなかったみてェだよぃ」
「そりゃそうだろ。海王類が幾重にも守護する、海底都市だ。そう簡単に手にーーーー………」

急激に、ニューゲートの表情が変化する。
それに気付いた、サッチとイゾウは、ニューゲートの肩越しに新聞を覗き見た。
すると、そこに書かれた内容、それは………。

“旧時代の巨大都市、アトラティカへの入口が発見される”

そして、古代文字で書かれたパネルが記載されていた。

「…………親父、古代文字、読めンのかよぃ」
「おれを誰だと思ってンだ」
「すっげェ!!親父、何て書いてあるンだよ」

エースやハルタが、瞳を輝かせてニューゲートを見る。
ニューゲートは、盛大に笑いながら、胸を張ると、

「読める訳ねェだろ、グラララララ」

と、云い放つ。
グダァ、と、その場で脱力するのはエース。
額に手を置くのはビスタ。
やっぱりね、と、云わんばかりに溜息を吐くのはマルコとイゾウ。
ゲラゲラ、と爆笑しているのは、サッチを始めとする船員達。

『どうかしたの?』

フルーツが入ったバスケットを持ちながら、シャナメルはエースの横に、ちょこん、と座る。

「世界政府がどえらいものを見つけたんだと」
『どえらいもの???』
「親父、新聞」
「ほら」

マルコから新聞を受け取ったシャナメルは、真剣な眼差しで新聞を見る。

『フゥン……あれ、何か挟まってる……』

がさり、と、新聞から何かを取り出す。
すると、シャナメルの表情が変わった。
それに気付いたエースは、モグモグ、とクロワッサンサンドを頬張りながら、ひょこ、と覗き込む。

「手配書だ」
『手配書………』
「メル、ちょっと貸して」

エースは、シャナメルから手配書を取り上げる。

「シャルル・T・フローディア……Alive only……4億8000万!?」
「マジかよぃ!?」

ざわざわ、と、ざわめき立つ周囲を他所に、エースは2枚目の手配書を見る。

「エドワード・オルフェウス……Dead or Alive…3億5000万!?………ん?オルフェウス……」
『おとしゃん……おかしゃん………』

ぽつり、と漏らした声音に、エースは、

「メル。部屋行こうぜ」
『……え?』

エースは、半ば強引にシャナメルを自身の部屋に連れ込んだ。
それを無言のまま見送る船員達。

「……ヤるのか?」
「判ンねェ」
「グタグタ云ってねェで、さっさとメシ食いやがれ!!食わねェと、取り上げっぞ!!」

ガンガンガン、と、けたたましくフライパンを叩く音と、ランドの怒声が響く。
船員達は、舌打ちをしながら、渋々、朝食にありついた。



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あきゅろす。
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