消えない虹の向こう側へ
趣味の妨害
国光と別れた奏荼は、エントランスのソファーに腰を掛け、自動販売機で買った烏龍茶を飲んでいた。

「………何か、鉄臭い」

ぽつり、と、呟く。
本当なら、緑茶を買う筈だったのに、購入ボタンを押し間違える、と云うナチュラルミスを起こしてしまった。
自業自得だから、返品の仕様もない。
だが、飲めない事はないので、返品すらせずに、プルタブを押し上げ、口を付けたのだ。

「ほうじ茶の缶タイプがあったら良いのに。どうして、烏龍茶とか緑茶はあるのに、麦茶やほうじ茶はないんだ?」

等と、呟きながら、烏龍茶を飲む。
そして、序でに土産物売場にあった、美味しそうな最中のセットも購入し、何を考えたのか、バリバリ、と包装紙を破り、中身を屠る。

「柚子最中と烏龍茶……。意外とイケるものだ。キリンくん、キミもどうだい?お茶は準備出来ないがね」
「気付いて、いたのですか………?」

崇弘は、驚きながらも奏荼の前に姿を見せる。

「まぁね。部長くんに云われて来たのだろう?」
「……」
「この最中を食べたら、会議に行きなさい。ボクはここで、人間観察をしているから」

モグモグ、と、最中を頬張りながら、奏荼は入口を見ていた。
やはり、榊グループ傘下だけあって、高級感が漂っている。
只のテニス部の合宿に、こんな豪華なホテルを提供するなど、考えられない奏荼であった。

「奏荼さんが戻らないなら、戻りません」
「おやおや。過保護はハチミツくんだけで良いのだよ」
「………」
「騒ぎを起こしたくないだろう?」
「………奏荼さん」

パクッ、と、柚子最中を頬張り、烏龍茶で流し込む。

「興味ないのだよ。下らない会議に何の意義があるのかね」
「………」
「プリントを配り、その内容を口頭で伝えるなら、プリントなど無意味。コストの無駄さ。大体………。嫌、キリンくんに云うのが間違っていたね。済まない」
「………」
「いい加減、座ったらどうだい?見下ろされるのはいい気分じゃないね」

崇弘は、奏荼の前に腰を下ろす。
何事もなかったように、奏荼は柚子最中を頬張る。
すると、奏荼のポーチから、機械的な音が聞こえる。
面倒臭そうに、ポーチから携帯電話を取り出すと、小さく溜息を吐いた。

「ボクの知り合いは、過保護が多いね」

どうやら、メールのようだが、内容を見るだけ見て、パクン、と閉ざす。

「やれやれ。行くしかダメなようだね。まぁ、趣味を邪魔したんだ。ボクを呼んだ事を後悔させてあげようかね」

奏荼が笑うが、その瞳は、笑ってはいなかった。





[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!