[携帯モード] [URL送信]
仮入部期間




千和が残酷ともいえる言葉を放ってからは、精市は口を閉ざしたままだった。
悲しみを帯びた瞳が揺れていたのは、千和も見逃さなかった。

戸惑いながらも真田が精市の名前を呼ぶが無反応。


『弦。』

『!…はい』

『悪いな。久しぶりにあったと言うのに…』

『いえ。元気そうで安心しました。』

『そっか』


『姉さん』


か細い声に、千和の視線が精市に戻る。


『…、…それでも姉さんは、俺の姉さんだよ』



泣きそうな顔で。
しかし、強い目で見ていた。



『………好きにしろ』







「………(少し、言い過ぎたかな…)」


仮入部期間になり、様々な部活が新入部員の欲しさに賑やかさがましていた。

生徒会室から見える校門までの道のりには1年と押し寄せている2,3年の姿が目立っている。




「千和」

「!…潤(ジュン)、どうした」




波馬潤(ハヤマ ジュン)

生徒会書記で、千和と同じ2年だ。

親しい人間にでも敬語を使うという礼儀正しい人で、千和の親友。
蜂蜜色をした髪が窓から入り込んでくる風に揺れる。




「行かなくて良いんですか?勧誘」

「ああ。オレがいなくても大丈夫だろう」



そう言いながら潤の方を向き、ふんわりと笑った。




「それはどっちの話です?茶道部?テニス部?」

「もちろん両方だよ。」



そう言いながら潤の方を向き、不敵に笑った。
ペンを止めて潤を見る千和の表情は自信に充ち溢れている。

それを見るなり、潤は「そうですか、愚問でしたね」と、小さく言った。




「そう言えば、先ほど廊下で茶道部の部長さんにお会いしましたよ」

「柚野部長に?」
「はい。張り紙を張っていまして。面白そうな記事だったのでついつい1枚いただきました」




はい。と千和に渡す潤。

部長のことだ、またロクなことでも考えているんだろうか。なんて思いながら開いた。

大きめなポスターにはでかでかと千和の写真が貼られていて。



「なん、だ?これは…」

「面白そうでしょう?」


春先に行われた外で行われたお茶会のものが使われている。

桜の木の下で催されたのだが、部長が記念に…!と言って千和の写真を撮っていたのだが。

それが見事に使われていた。




「クスッ、千和は写真写りも良いですね。すでに何人か魅了されていましたよ?」

「そ、れより…」

「それより?」

「これは、なんなんだ!?」




千和の指さすそこには、新入部員には千和と1対1でお茶会できると書かれている。

訊いてないぞ!と声を荒げた。潤は眉をしかめて口元を書類で覆い隠す。



「声を荒げるだなんて、はしたない。」

「だがな、潤!!」

「これで新入部員も増えるという話ではないですか?」

「茶道に興味無いヤツはいらなねえ!」




スグにやめるに決まってる…。

確かに部員は少ない。千和を含めた全部員数は5。
3年が2人で2年が3人なのだ。
気楽に部活をしているが、それなりの作法はしっかりしている。

お茶会を月に1度行い、決して遊び部ではない。



ぶつぶつと言いながら、乱暴に椅子に腰かけた。

机に頬をくっつけ、文句を言い続ける千和にため息を零す潤。



「(やれやれ…)千和。お茶でもいかがですか?」

「…もらうー」





そのころ精市は、テニス部に足を運んでいた。

1年は見たところ50人ほどいる。

立海のテニス部は有名で、男女共に絶大な人気を得ている。

その効果もあるのだろう。



「幸村」

「なんだい?」

「千和さんは、テニスの続けているのか?」

「……さあね。」



隣に立つ真田を横目で見て、目を閉じた。

家を出て以来、何をしているのか。どこに住んでいるのか…全くわからなかったのだから。

ましてや立海の校門には警備員が居る為、許可なく立ち入ることはできないのだ。




「続けている…と思いたいな、俺は。」

「そうだな」




一年集合!!という声が響き渡り、練習が始まった。

決して楽なものではない。ロードの途中にリアイアする者も居れば、倒れる者も多い。

走っているヤツの中でも多くの1年が息を切らしている中で、少人数だけが先輩についていって走っていた。

精市も真田もその中に該当する。

そのあと、休憩をはさんで素振りをしたりボール拾いをしたりしていた。

仮入部とはいえ手を抜かない男子テニス部。その効果もあってか、仮入部期間中に入部希望の半分はすでに居なくなっていた。





「今日の練習はここまで!明日からは正式に入部という形になる。1年はよく考えてから入部すること。
それと現レギュラー!明日は新入部員を含めて校内トーナメント戦を行う。体調を整えて来い」

「「「イエッサー!」」」

「以上だ、解散!!」




NEXT...
091102

←前の話次の話→

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!