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最後の姉の姿





昨日、姉さんの様子がおかしかった。

やたら女の子という言葉に反応するし、時々見せる悲しい顔が離れなかった…。


季節は春。

姉さんは小学校を卒業して、立海大付属への入学が決まってた。

しかも…新入生代表だって。すごいな、姉さんは。



「幸村。」

「何?」

「今日、千和さんの姿が見えんのだが…休みか?」



コイツは真田。

強いって言うから勝負したんだけどね。

時間も丁度空いているし…ということでスクールのテニスコートで打ちあうこととなった。



「今日、姉さんは来ないよ。なんか…あるみたい」

「そうか…残念だな」

「だね」




でもね、このとき何か違和感があったんだ。

どこかで危険信号が赤を示してて。

落ち着かない。



でも、なんなんのかサッパリわからないんだ。




「幸村。どうした、心ここにあらず。という感じだな」

「ふふ、ちょっと胸騒ぎがしてね」

「そうか…。」



難しい顔をしている真田。

自分も何か感じているんだろうな…。





夕方、そろそろ帰ろうかと思った時だった。

パタパタ走ってくる影が一つ。

さほど気にせずテニスバックにラケットをしまっていた。




「精市ー!」

「……姉さん?」



ピタリ、手を止めて振り返ってみると、朝見た時とは違う姉さんの姿があった。

長くてきれいだった髪。俺が大好きだった髪が…さっぱりと切られていた。

俺より短い。



「どー、したの?その髪……」

「ははっ、驚き過ぎー。切ったんだよ」




それに、ちょっと言葉使いが違う。




「似合う?」

「似合う、けど……」


「千和さん?」

「おー!弦ちゃんだー」




ははは、って笑う姉さんの雰囲気がガラッと変わってしまった。

信じたくない。そんな言葉が脳裏をよぎっていく。




「精市。帰ろう?」

「うん」


手を差し出してくる姉さんの手を取って、俺はテニスバックを持つ。



「じゃあな、弦ちゃん」

「はい」



ほら、また……



「精市。母さん達は反対してたんだけど、知り合いに頼んで一人暮らしすることにしたよ」

「そんな、急に…?」

「うん。昨日電話したんだ。そしたら、あっさりおっけー貰ったし。」

「母さん達には、どう説明する気?」




姉さんは、笑ってた。

何も言わずにただ…笑うだけだった。




「ねえ、もしかして…昨日こと?」

「…………何のこと?」

「っ、姉さん…」

「精市が思い悩むことないんだ…」




だいじょうぶ、ちゃんと言うよ。

そう言う姉さんは夕飯になっても、何時になっても…母さん達には言わなかった。







そして次の朝……









「精市…っ、」



母さんが、泣いていた。

机の上に置かれた白い紙に書かれた、姉さんの文字。




「姉さん…は?」

「出て行ったよ」



泣き喚く母さんの代わりに、父さんが淡々と言った。


出て、行った?


昨日の今日で?



俺は手紙を手にとって読み始めた。

そこには、“自立したいから”“女だから”“生活費の心配はいりません”の言葉が並んでいて。

そして、重要な事に気づいてしまった。

一人暮らしの住所が書いてない。

もう一度読み直してみるけど、やはり書いてない。



不安とか、焦燥感…そういう感覚はなくて。
俺はひどく冷静だった。



「姉さんなら、きっと大丈夫だよ」




何の根拠もないけれど。



「だって、母さんの手伝いだってしてきたし、大丈夫。それに…しっかりしてるし、馬鹿じゃない」



本当は泣きたいけれど、一滴も流れない。




「それに、中学は立海でしょ?行方不明じゃないんだからさ」




会いたいときは、逢える…。

俺も立海受験するし、行きたいし、ね…。




その日を境に、姉さんはこの家の門をくぐることはなかった。






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090924
―――――――
序章終わりです。
幸村家は至って穏やかで、歪んだ家族ではないですから!

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