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その少女は静かに涙を溢した





「精市は男の子だから」



その言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になった。

私が、やって来た事って…、女の子だから。が全ての理由?



「おかあ、さん?」

「あら、どうしたの?何かあったの?」




ふんわりと笑みを見せてくれて。





「私、だから?女の子…だから?」

「ん?」

「精市は男だから、何もしなくていいの?」

「そう聞こえちゃった?ごめんね?贔屓しているわけじゃないの」




いや、思いっきり贔屓してる。

私だけに強制されているようなことは本当に多い。



料理を手伝って。
(精市は手伝んなくていいのに?)

掃除をして。
(勉強してても言われる。精一は遊んでいるのに…)

部屋はキレイにしておきなさい
(私も精市も同じくらいキレイなのに…)

アイロンかけなさい
(やけどしないように、って…)

後片付けしないといけない
(私だってテレビ見たい…!)

靴を揃えなさい
(精市の分もそろえてあげるの)

お昼くらい一人で作ってたべて
(精市だけだったらお金が置いてあるのに…)





「でも、女の子だもの。千和はやらないとね」


「…っ、そうだね。
ねえ、おかあさん」


「なあに?」

「私、中学に上がったら一人暮らししたいの。自立、したいんだけど。」




うそだよ、ウソ。

これ以上、私と弟の差別を見ていたくないから。

だから離れたい。

お母さんは悪気があって言ったわけじゃないから…怒れない。

精市が悪いわけじゃないから、当たっても仕方ない。




「一人ぐらし、ねぇ。女の子だから――…」




ああ、なんでまた言うの?


私は、いやだよ。




「お父さんが帰って来たら聞いてみましょう?」

「う、うん」



今できる笑顔を作っておいた。

チラッと精市が視界に入ってそっちに視線を移したら、ひどく悲しそうな顔をしていた。



(そんな顔しないで…?)



その日の夕飯はやっぱり豪華だった。

そして、一番おいしいと感じなかった。

何度も私の顔色を窺ってくる精市が、ひどく憎くて、愛おしかった。












「――は?一人暮らし?」

「うん。ダメかな…」

「まだ中学生だろ?一人暮らしは女の子だし危険だなー…」



おとうさんも、言うんだ……


なんで、女の子だとダメなの?





「お父さん。女の子じゃなかったら…精市だったら、許してた?」

「んー…いや、心配だな。でも…まあ、精市なら…、うん、男の子だしな」



そう、なんだ……




「ん、わかった。」



「諦めてくれるかい?」

「“女の子だから”、ね」



少し強調して言って、私は席を外した。



「どうしたの?」

「もう、お腹いっぱい。大丈夫、片づけはやるよ。――…女の子だしね」








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090916

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あきゅろす。
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