[携帯モード] [URL送信]
宙を掴むことはできない



幸村が付いてきているのはわかってた。
真田、柳と一緒に居ったのも、2人を置いて一人で来たのも。


念のため千和の家に向かわないで正解なり。
チョロチョロ動きまわっとって、面白い位ついてきていて。


(そろそろ千和の家に行きたいしの…)



商店街の、近くにある陰に隠れた。幸村が俺の前に行ったところで声をかけた。

案の定、幸村は目を丸くして俺を見ている。



「気づいて…?」

「ん、まぁな。人の気配には敏感じゃき、幸村がついて来とることは始めから気づいてたぜよ」

「…じゃあ聞くけど、仁王は何処へ行くんだい?家はこっちじゃないだろ?」



細められた目。
確かに感がいいかも知れんの、千和…。



「俺が何処に行こうが幸村には関係なかろ?」



幸村とこうやって話すんは初めて。まあ、幸村精市っちゅーひとのことは前から知っとったけどな。
千和からよく聞いとったし。

正直、幸村のプレーが千和に似ていて驚いた。流石姉弟だと、思うぜよ。
視線が気になったのか、何度か振り返る姿もあったが。


そうこう考えていたら、幸村は難しそうな顔で俯いて、眉間に皺がよっとった。


「というのが普通じゃけど、幸村のことじゃけぇ、予測はしとるんやろ?」

「もしかしたら、仁王は姉さんの所に行くのかなって。」



ほお。



「姉さんが何処に住んでいるのか知らないし、1年も会ってなくて、心配だし。仁王なら知っているかと、思ったんだ」

「例え、これから千和の家に行くとしても、知っているとしても…お前さんに教える気はなかよ。」



よう考えてみんしゃい。
なぜ、千和が家を出なければならなかったのか…。
住所を教えなかったのか。
それだけではない。
千和が千和という人を殺し、隠すようになってしまったのか。

練習試合の後、幸村に千和がなんて言うたのか俺は知らん。
じゃけど、あのあとの千和は少し悲しい目をしていた。



「今の千和に会っても、幸村は傷つけるだけなり。決して昔のようになるだけぜよ。
千和が今の千和であり続ける理由がわからん限り、下手に説得するんじゃなかよ?」



これ以上、千和が傷つくのは見ていられんぜよ。
千和に助けられたからこそ、力になりたいと思った…。



「幸村…おまんが思うより千和は弱い。自分の気持ちばかり押し付けていたら……本当にいなくなるぜよ。」



そうさせたくないから、突き放すような言い方をさせてもらうぜよ。

止めたままの足を動かして、商店街を歩く。幸村はついて来ないようじゃな。
ようやく、千和の家に行けるのう。


……さて。
千和を少し驚かしてみようか。



NEXT...
(俺は、どうすればいいんだよ…)
100210

←前の話次の話→

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!