君と出会った 『何を、そんな哀しい顔をしているの?』 川沿いの道はずれ。 芝生の上で寝転がっている少年に声をかけてみた。 小6になった頃のことだった。 この頃の俺は未熟で、難しいことも考えることができない只の餓鬼。 綺麗なオレンジ色の空を見ていた少年は、面倒くさそうに俺を見てすぐに視線を空へ戻した。 『なんか…不満で、嫌で、でもどうすることもできない。そんな顔してるね』 『…誰?』 そう言った少年の目は冷たくて、声色からも何かを凄く憎んでる、そんな雰囲気を孕んでいることがわかって。 なんで子供の俺にソレがわかったか。そんなこと、単純だ。 『私は幸村千和。君は?』 俺と、同じ目をしていたんだよ――… 『仁王、雅治…』 「懐かしいなあ…あの頃のマサ。1匹狼って感じで」 「まあ、今の俺が居るんは千和のお蔭じゃな」 そう言って、頬を緩めて笑った。 マサは変わった…。あの頃のマサは俺と同じ目をしていたのに。 「誉めても、何もでねえよ」 苦笑すれば、マサは目を丸くして。 「なんも……何もいらんぜよ。千和にはいっぱい貰ってばかりじゃき。最近は千和の弟…」 続きを言わずに口を閉ざすマサ。足を止めてマサを見ると、やばい。そんな表情があって、金色の目は揺らいでいた。 ああ、禁句だと思ったのか… 「精市もテニス部に入部したんだろ?そうだと思った。というより、錦から聞いている。お前の弟が入部してきたと。 …そんな顔をするな。別に気にしてないから、な?」 視線を反らして俯き、制服の袖で口を覆い隠す。 気にしてない、って言ってるのになあ… 「マサが抱えることじゃないだろ?」 踵を返して、マサの前まで行くと頭を撫でてやった。白い髪は柔らかく細かい。 あの黒髪に触れていたときとそんな変わりはない。 「俺は……」 「……なあ、マサ。今日、俺の家来るか?」 「…はあ!?なに考えちょる!」 「素直になれ。そう言ったのは誰だよ…。」 もう溜息しか出てこないな。 気づけよ。 立海では、癖になっているんだ…゙俺゙という存在が。 この生活を1年も続けて慣れてしまった。 今更素直になるだなんて、出来るわけがないだろ? 「精市に感ずかれずに来いよ。あれは結構感が鋭い。それにな?誰もしらねえんだからよ、俺の家は。」 驚いた表情を向けるマサ。 ああ、俺はお前だから気を許しているんだ……。 「……さて、行くか。」 「部長!」 「あら、##name1##君。思ったより遅かったのね」 こっちに向かって走ってくる一人の人物。 柔らかな髪が揺れて、周りの人を魅了している。 「遅れました…すみません」 「良いのですよ。生徒会は終わりましたか?」 「はい。俺がやるべきことは一通り。何かあるようだったら呼ぶように言いましたので」 チラリ、コートに視線を向けるとダブルスが始まっていて、少しだけ焦りを見せた。 自分の出番はどうなのかと心配をしてしまう。 「##name1##君はシングルス2です。」 「はい。」 「着替えてアップして?スグに順番は回ってきちゃうわ」 「分かりました」 杠葉は隣でスコアをつけている錦野に目を向ける。 そこに書かれているトーナメント。 それを見ると微かに目を細めた。 「千和君。弟君とやりたい?」 「……興味ありません。」 「クスッ、そう。では、頼みますね」 「はい」 走って部室に行こうと身体を向けたとき、呼びとめられて振り向いた。 杠葉は首を傾げながら 「関係者以外は立ち入り禁止よ?ここ」 視線は千和の少し後ろで控えている仁王に向けられていて。 「承知してます。コイツは男子テニス部なんで…」 「…分かりました。許可いたします」 「ありがとうございます。…マサ、おいで」 「ん」 千和の後を追う仁王の姿を見て、杠葉は少し驚きの表情をあらわにしたが、ふふ、と笑みを浮かべた。 普段、様々な人から信頼と尊敬の眼差しを受け、交流的な千和。しかし自身の内側に溶けられる人間は少ない。 女子テニス部のレギュラー。生徒会のあの2人位だろう。 「珍しいものを見ましたね」 「…そうだね」 「よかった」 「「ライバルしゅっつげーん!」」 「もう、どうでもいいよー」 女子テニス部のメンバーが並んで歩いている2人を見て騒いでいるのに対し、男子テニス部の各々の反応はすごいものだった。 練習にもあまりでなく、先輩後輩の理(コトワリ)を無視した行動に呆れているものも多い。 その中で真田と柳は無言で仁王と千和の背中を見ていて、精市は「姉さん…」と強く手を握っていた。 「…精市」 「……なんでだろうね…あそこには俺が居てもおかしくない場所なのに…」 ――そこに、自分はいないんだ… NEXT... 091212 姉さん依存症なゆっきー ←前の話次の話→ |