[携帯モード] [URL送信]
ギン色は輝いていた








タン、タン、音を立てて階段をあがる千和。
あまり生徒も近付かない屋上へ行く一つの階段は少し埃が残っていて、息が苦しい。

鍵も付けていないドアを押して開けると錆びた音が響いた。
もうこのドアも変えどきだろう、心の中でそう考えて申請書を作成しないとな。なんて考えを巡らせながら屋上へ出た。

吹き抜ける風が千和の前髪をたなびかせている。
緩やか、というには優しすぎる風の強さに一瞬目を閉じて、ゆっくりと瞼を開いた。

清々しい程の青い空が広がっていて、自然と頬がゆるむ。



「随分と男らしくなったもんじゃな」




扉の上に設置されている貯水タンク。それを背にしてこっちを見ている男はやけに笑顔。
銀色の髪が風に無造作に揺れていた。

足をぱたつかせている姿はどこか幼い。



「……」

「なん、俺を忘れたんか?」




ククッと笑いながらストン、と降りて来て千和の前に立った。

何を言うでもなく、その男を見ているだけ。
制服から1年だとわかるが、自分には銀髪の知り合いなどいない…と頭の中で考えていたのだ。

肩をくすめて、千和の肩にぽん、と手を置き



「“しけた面してんのぉ。何かあったんか?”」


「!!」


「“また会おうな、千和。そんときはまたテニスしたい”」



中学に上がる前に出会った少年がかぶった。



「まさ…なのか?」

「信じられんような顔じゃな」

「髪…黒かったじゃないか」

「…それはわすれんしゃい。
久しぶり、千和」

「………っ、ま、さ…っ、また逢えた」



自分と同じくらいの、その少年――仁王を抱きしめた。

ぽんぽん、と背中を軽く叩いてあやす仁王。これではどちらが年上かわからない。




「入学式見て驚いたぜよ」

「生徒会長として、行っただけだ」

「……そうじゃな」




こうして抱きつくのは1年ぶりだな…。




「随分と千和が男らしくなってて驚いたぜよ。初めは別人かと思うくらい…」




でも、中身は最後に会った時と変わらんな。
クスリと笑いながらぎゅうぎゅうと抱き返した。


やさしい匂いは変わってなくて。
昔の俺が呼び覚まされるんじゃないかと思ってしまう。




「まさは、どうして…」

「ん?立海にいることかの?」

「それも、あるけど」

「ククッ、秘密じゃよ」




しぃー、と口元に指をたてている。

相変わらずだな。こういうところは。




「……あ、まさ、わりぃ。これから部活に行かねえと!!」

「ああ、茶道か?でかいポスターみたぜよ」

「うっ、それは記憶から抹消してくれ。…今日はテニス部だ。練習試合があるんでね」

「!……一緒に行ってええか?」

「いいけど…テニス部以外立ち入り禁止だぞ?」

「平気じゃよ。俺もテニス部じゃき」

「……馬鹿が。」







(千和千和。俺と話すとき位素直になりんしゃい)
(は?どういうことだ?)
(昔みたいにってことなり)
(まーくん?)
(いや、そうじゃなくての…演技やめんしゃい)
(……、行くぞ)
(プリッ)


NEXT...
091111

←前の話次の話→

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!