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ある日の姉弟





まだ“ワタシ”だった時の話――…



小学生の事だった。

精市と同じテニススクールに通いながら勉強も劣らずにやってきた。




「ねえさん!」


「ん?あ、精市!優勝おめでとう!」


「うん、ありがとう。姉さんも優勝おめでとう」


「ありがとう」





私たちの中の良さは学校でも有名になっていて、両者共にモテていた。

自分でいうのもなんだけどね。



私たちがテニスで優勝するといつも夕飯は豪華だ。

精市も私もお母さんの手料理が好きで、いつも楽しみにしていた。




家に着いたら、お母さんに報告する精市。

優勝という言葉にお母さんは精市の頭を撫でて喜んでいた。

それを見るのが、とっても好き。



ああ、それと。

小さいながらに、私はお母さんに何度も言われ続けてきたことがある。




「もうすぐ中学生なんだから料理位できるようになりなさい」


「はーい」




とっても小さなことでしょ?

小学生の私に大きな包丁を持たせて、キッチンに立たせる。

小学4年生の時かな。

それ以来、夕飯のお手伝いをしてきた。

あと、洗濯物を畳んだり、アイロンをかけたり…。



素直に従っていた。

精市と私は1歳しか違わないから、来年から大変だなー…なんて思ってから2年。

精市は5年生で私は6年生。




「精市、先にお風呂に入ってていいわよー」


「はーい」


「千和は夕飯の手伝いして頂戴」

「んー」



未だに何もしていない。

いくら仲良しでも、突っかかるものがあった…。


“なんで…?”


それが、少しずつ沸いてきてしまって。

蓄積されていくのが自分でもわかってた。




ガチャンッ!



「!?…どうしたの千和…怪我なぁい?」


「う、ん…」




いっつも聞こうと思って聞けなかった。


怖かった。



なんでかわからないけど…聞いたら何かが壊れると思ってたから……。





「ここ片付けるから掃除機持ってきて?」


「うん…ごめんね?」


「大丈夫よー」





お母さんはとっても優しい。

お皿を割っちゃっても、怒らないの。

スリッパをパタパタと音を鳴らして、倉庫に入っているコンパクトな掃除機を出してせっせと運ぶ。

大きな破片は取り払ってくれたみたいで、見た感じでは何も起こってないかのような床。




「あら、わざわざ持ってきたの?転がしてくれば良かったのに」


「あ、うーん…そうだね」


「じゃあ、この辺やっといて?」

「はーい」




コンセントに差し込んで、電源を入れる。

時折聞こえる破片の音を聞きながら、掃除機をかけていった。


結構破片って飛び散るんだってね。見えないからさらに大変だよー…



まあこの辺りで大丈夫かな、なんて思って電源を切って掃除機を持ち上げる。





「これ戻してくるね」


「はぁい」




ご機嫌なお母さんの声に、私は掃除機を倉庫へ持って行った。




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090906

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