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夏に雪
帰宅

お喋りは継続されながら建物を通り過ぎ、駅前に着くもののまたぐだつきながらホームに上がり、お互いの電車が来るのを待つ。私は一番線で、ハルは二番線だった。アナウンスが流れ、二番線の到着を告げた。明るい声でまた明日ねー!と手を振るハルに手を振り返す。小柄な体はぴょんと電車に飛び乗り、視界から消えた。一番線も到着し、私は慌ただしい1日の帰路に付いた。





付けたイヤホンからの音はほぼ聞こえない儘に駅に着き、家路に着く。親からのメールに今から帰るよと打つ。今日のご飯は入学式バージョンらしく、余り料理の上手い訳では無い母の腕に私は苦笑いしながら微笑んだ。

携帯をいじりながら、携帯のアドレスを訊けば良かったなあと思考が浮かぶ。別段、明日も会えるのだし、すぐに必要な訳では無いのだけれど、入学式が終わるのが惜しく、今すぐにでも連絡を取りたいくらいだった。

取りたい、連絡を。
ー誰と?

携帯から見上げた空は、穏やかに雲が流れていた。





「ただいまー」

玄関のドアを開ければ、料理の暖かい匂いと共におかえり真知子と母が出迎えてくれた。迎えてくれた途端に私はちょっと吹き出した。今日のドタバタを思い出したのだ。どうしたのよあんた、と訝しげられながらゴメンゴメンと謝る。今日学校でこんな事が合ってさ、と切り出す。笑いながら笑われながら、既に帰宅していた家族と夕食を取る。ハルちゃんて面白い子ね、これからハルちゃんのお陰で楽しくなりそうね、今度家に呼びなさいよと母の対応は大らかだった。

バラエティを見ながら会話は続き、適当な腹休めの後お風呂に入る。高校に入るまでお預けしていた少し高めのシャンプーとリンスを解禁し、入浴剤を溶いた湯船に浸かる。濡れた髪を撫でながら、私もあんな風になるのかなと湯気で白く曇る浴室を見詰める。

お風呂を上がり、自分の部屋で髪を乾かす。見詰める鏡の奥には風の香りと彼女の微笑が映る。
化粧水を頬に軽く叩きながら、笑い顔の練習に口角を上げてみる。彼女の笑みには到底適わない。ぼんやりとハルの話を回想しながら、甘い香りを思い出す。お小遣いを幾ら割いたら良いか考える。
ベッドに潜り込みながら、慌ただしい今日1日を脳裏に浮かべ、思い出す。可愛らしいハルに仲良くして貰えた事も、クラスに馴染めた事も、ざわざわした感情も鮮明に脳裏をよぎっていく。
ただ、私はどうして母親に彼女の事を言わなかったのだろうと思った。脳裏はハルとの帰り道に記憶を進めていく。

明日も逢えるよ。と、脳に残る音声を再生し、私は眠りに落ちた。

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