夏に雪
帰り道
そんな中、静寂を裂くように明るい声に名を呼ばれ、横目でそれを見た綾実に私は何故だか瞬間的に悲しさを覚えた。
パタパタと走って来るハルに綾実はじゃあね、帰るからと言いすっと歩き出した。どうしてか、ハルを退けてでも引き留め無ければならない感情に駆られた。
「あやみ、」
声を出した私に綾実はふっと振り向いて、
「明日も逢えるよ」
と、まじないの様な言葉を唱えた。パタパタとした足音は私まで追い付き、待たせちゃってごめんね、なっちゃん、と腕を掴んだが、私は若干上の空で空返事をし、彼女の残した空気に変に取り残されていた。
遅くなってごめんね、帰ろ?と明るい声は繋がり、私はうん、そうだねとハルを見て答えた。
学校を出て、お喋りをしながら帰路に着く。ハルは私の隣で自身の事を楽しそうに流暢に話し、私はそれに相槌を打ちながら聴いていた。元々化粧が上手いのか好きなのか、待たされた分先程よりは濃い化粧は入学式後の生徒とは思えず、まくし上げたスカートの膝丈も相俟って、ハルは高二ぐらいに見えた。引き換え、私は如何にも入学式後と言った風貌で、自分で見ても傍目に見ても不釣り合いだった。
学校が見えなくなった辺りのデパートで、ハルが寄り道をしたいと言い出して、私はじゃあ行こっかと彼女を促した。
「ハルねぇー、今日出る新しい化粧品が欲しくてー」
入ったデパートの化粧品売り場で、並ぶ商品を眺めては手に取りながらハルが喋り出す。
「へぇー、どんなやつ?」
「えーっとねー、Splendid Glitterのグロスの新色なんだけどー…」
へぇー、そう、と返して見るものの、私には何が何だか分からない。多分メーカー名なのだろうが、私は聴いた事も見た事も無かった。
「まだ置いて無いのかなー…」
「無いの?」
「無いー…」
落ち込んで愚図り出しそうなハルの見ていた商品棚にはどう見ても高そうな化粧品達が並んでいた。これがさっき言っていたメーカーなのだろうか、パッケージは金色やラメ加工のきらきらとした色合いで、如何にも女の子が欲しそうな、女の子色全開の化粧品だった。ハルが好きそうで、とても似合いそうだったが、私には今一似合いそうに無かった。テスターを使ってみなよ!と口紅を渡されたが、奇抜なその色は私を拒絶している気がした。
目当てな物は無いようだが、色々と物色しているハルから少し離れ、他の化粧品達を見詰める。色とりどりのその中から、しっくり来そうな物を探す。
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