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夏に雪
ユキの言葉

「嘘……」

私は口元を押さえながら泣きそうになっていた。目に涙を溜めながら泣きそうになる私に、ユキはそんなそんな、泣かないでよと少し慌てた。私は鼻を啜りながら瞬きをし、うん、大丈夫と崩れた顔で笑った。

「そんな欲しかったの?予想が当たって嬉しいけど、ちょっとびっくりだよ」

そんなに欲しかったのかぁ、とユキは繰り返した。勿論欲しい物では合ったが、探し途中にハルを見付けてしまったり、ハルの事が好きなアキにあたられたりと、私の頭は混乱し平常心では無かった。そんな中欲しては居たが忘れ掛けていた物をユキから目の前に差し出され、私の心は緩やかに崩れた。干ばつに落ちる雨のように心は癒され、私は取り出したハンカチで目許を拭いた。

「でも、どうしてわざわざ…?」

私なんかに、と続けた。ユキは泣き止んだね、よしよしと笑いながら答えた。

「周りにDOLL'S DOLL好きが居なくて嬉しかったのもあるし、ナツの描いた絵に引き込まれたって言うのも理由かな。今は落ち込んでるみたいだから励ましたくてって言う思いが強いかも。それでもやっぱり一番はナツの絵に引き込まれたからかも。本当どきっとしちゃったの、あの絵。何だったんだろうなぁ」

手を加えた癖に何だって話だよね、本当そうとユキは笑った。私はユキから貰った香水を握り締めながら、口を開いた。

「初恋の絵なの、あれ」

初恋?とユキは私を見た。うん、そうと私は頷いた。

「私の小学校の時に見た絵が初恋だったんだけどその絵があの絵なの。勿論、あの絵にはその初恋を忘れたくないとか、その初恋に対する想いを自分の中で考えて描いてるから初恋した絵まんまの絵では無いけど」

その儘描いたら真似しただけだしねと私は加えた。カプチーノを飲みながら、ユキは私の話に興味が沸いたらしく、初恋の絵はどんな絵だったのと尋ねてきた。

「初恋の絵?えっと、花火の絵だよ。花火より黒い夜空が綺麗でさ、…誰に話しても普通逆でしょって言われるんだけど」

ははは…と誤魔化すように笑えば、ユキはそうかなと口を挟んだ。

「花火自体が幾ら綺麗でも、浮かべる夜空が綺麗じゃなきゃ綺麗には感じないよ。やっぱり、空が綺麗な絵だったんじゃないかな。他の人が何と言おうと、ナツのその感性は信じて良いと思うよ」

ユキの作る美しい微笑に、私は赤面しながら照れくさくてまた俯いた。ユキの言葉が好きだ。ユキは本当に魔法遣いかもしれないと、私はユキの微笑みを見詰めながら思った。

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あきゅろす。
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