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夏に雪
マイネームイズオレンジ

「なっちゃんだ!」

静かな教室、気怠い緊張感溢れる空気、それをパリッと割るような学生特有の声域音。

加えて、

「…美で、好きな事は音楽を聴く事です、宜しくお願いします」

ガタリと、前の子は椅子を引き、席に着く。次の自己紹介は言わずとも、

「次、早く始めろー」

私だ。
かっと耳まで染まりながら私は椅子から立ち上がる。後ろの女の子の所為だ。私はクラス全員の視線を浴びながら口を開かなければならなかった。初日早々酷すぎる。何も無ければ誰も耳を貸さない儘やり過ごす事が出来たのに!私は後ろに座る茶髪の子を恨んだ。

第一、なっちゃんとは何なのだ。私の名前に一文字もかする事は無い。何故なら私の名前は、


「え……、と…、池田真知子です、宜しくお願いします…」

池田真知子。
いけだまちこ。
あだ名に採るにしろ、なの字など一文字も無い。名前を言った途端、なっちゃんじゃねえじゃんとぼそやきが上がる。乗じてほくそ笑いが上がる。私の耳は更に赤くなる。逃げ出してしまいたかった。私はそれ以上何をする事も無く、無様に席に着いた。それでも、これ以上何も無ければ、私はただ名前を間違えられた人物で済む筈だったのだが、後ろの女の子はそれを許してくれなかった。
担任が適当に次に順番を回す。ガタッと響いた音にその子が勢い良く立ち上がった事が解った。

「初めまして、陽野亜季って言います!前の子の、なっちゃんの名付け親です!」

後ろから槍で刺された気分だった。私はまたクラスと言う空気を浴び無ければならなかった。
後ろを見る勇気も無く、肩を竦めて、思い切り俯く。

「私ぃ、ニックネームに出来る部分が2つあるんですけど、あ、ハルとアキで。でもハルが好きなのでハルって呼んで下さい!なっちゃんの事も、私がなっちゃんて付けたので、なっちゃんて呼んで下さい!」

ころころとした乙女な可愛い声で後ろの子―陽野亜季は自己紹介を終えた。私はこれから最悪のスタートを切らなければならないのかと落ち込んで居たのだが、周りの反応は違っていた。唐突に付けたあだ名、一文字もかすらない本名、私と彼女の紹介のギャップはクラスの空気を一気に変え、私と彼女、陽野亜季ことハルはすぐさま周りから茶化すように名を呼ばれ親しまれ、一気に名前を覚えて貰えるキャラになっていたのだった。如何せん予期せぬ事態に、後から続く自己紹介は全く耳に入らなかった。

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