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夏に雪
お揃いのプレゼント

ユキを思い切り凝視に近く見詰めてしまった後、私ははっとして我に返った。これではまるでユキに女の子に好かれたらどうすると直に訊いているようなものじゃないか。ユキは私の視線を適当に受け流し、カプチーノをストローでつついた。私がおどおどと落ち着き無くしていれば、私を見ない儘ユキは口を開いた。

「どうかな」

「ど、うかなって?」

私の声は変に上擦る。ユキは伏せ目がちにカプチーノを飲みながら続ける。

「男の子が女の子好きになっても良いし、女の子が女の子好きになっても良いと思うよ。男の子が男の子、とか。私は特に思わないけど」

カプチーノは少しずつ減っていく。私は何を期待していたのだろうか、ユキの曲線にならない感情の解答に蟠りを消せなかった。否定か肯定か、二極端な答えが欲しかったのだ。それはきっと、私が女の子に好かれ、私自身も女の子を好きかもしれないからかもしれなかった。良いのか悪いのか、ユキに判断して貰いたかったのかもしれない。俯きがちに言葉を無くしていれば、ユキの言葉は再開された。

「まぁ、…うん、何て言うか、偏見が有る無しじゃなくて、うち親が離婚経験あるからさ、それでかもしれない。ほったらかしてるって言うより、好きなら好きで好いんじゃないってこと。同じ性別を好きになっちゃうのはちょっと変わった恋かもしれないけど、続いたりするし、正当な恋愛も終わっちゃったりするからさ。何が良しとは言えないよね、悪いとも。そう思うよ」

ユキは言葉を終えた。私はユキの意見に聴き入りながら彼女の親の離婚の話に躓いていた。だからユキは絵の上手い父親の話で表情を曇らせたのだろう。私はどうしたら良いか判らなくなっていた。恋の範囲などどうでも良く、話を切り換えてしまいたかった。しかし会話の種も浮かばずもだもだとしていれば、ユキはあっそうだ、ナツに渡したい物あったんだと鞄を探り始めた。その場しのぎなものではなく、ユキには本当に私に渡したい物があったらしい、鞄からそれを取り出して、こんな話の後にあれだけどと私に小さな紙袋を手渡した。

「え、こ…れ、」

開けた紙袋から出て来たのは、ピンク色の瓶だった。細身で、黒い蓋は個性的な模様を携え独特の雰囲気を醸し出している。掘り出されるように浮き出す文字には見間違えようも無い、はっきりと記憶した名前が刻まれていた。

「もしかしたらナツ、欲しいんじゃ無いかなって思ってさ。ナツの分と自分の分、二つ買っちゃった」

ユキは鞄からもう一つ同じピンク色の瓶を取り出して、手元で揺らしてみせた。それは私とユキが好きな、DOLL'S DOLLの香水だった。

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あきゅろす。
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