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夏に雪
下車駅のクレープ屋

画材を片した後美術室に錠をし、学校を出る。駅から電車に乗り、乗り換え駅まで座りながら下らない雑談を交わす。通り過ぎてしまいそうになりながら雑談の途中で下車駅に着き、私は初めて降りる駅に思わず辺りを見回した。

「うわぁ…何だか、綺麗な駅だね」

「最近だけどね。去年から工事しててさ、やっと新しくなったんだよ」

前は古い見掛けでさ、結構ボロかったんだよとユキは付け加えた。ふーん、そうなんだと答えながらさり気なくユキの隣に並ぶ。いつもとは違う景色にユキの横顔は新鮮に感じる。私は笑みながらユキを促す。駅降りてさ、ちょっと歩いた先にあるからとユキは指差しながら歩き出した。


歩いて着いた先には学生が好みそうな小さなお店が建っていた。見掛けはケーキ専門店のようだったがメインはクレープらしい。ケーキもあるんじゃないかなぁ、多分、とユキは呟くように私に言う。私はてっきりユキのお気に入りのお店に案内された気でいたので余り詳しくなさそうな口振りに少しだけ面食らった。

「そうなんだ…何か、個人のお店みたいだし、ユキはもう顔馴染みぐらいのお客さんのお店だと思ってた」

店内に入り、レジ前に歩く。レジ前と言うよりはマスターが作る側に設置された受付に向かう。どれにする?とユキは見やすいようにメニューを広げてくれた。

「そんな何回もは来てないよ。ほんと数回。ただ今日ナツなんか暗かったからクレープなら食べ行こうよって誘いやすいし、食べながら話出来るかなって思ってさ」

マスター、抹茶小豆クレープ一つ、と注文しながらユキは答えた。私はまたも言わない胸の内を見抜かれ今回は先回りまでされ、閉口するしか無かった。私はそんなにも顔に出ると言うか、分かり易い性格なのだろうか。一人眉を寄せていればナツは何にするの?と整った顔は俯く私を覗き込む。わっ、と驚きながら、私はチョコバナナクレープを注文した。マスター、トッピングおまけしてあげてよとユキが付け加える。えっ悪いよ、と言い終わる前にマスターの明るい返事は返ってきてしまった。

また二人で食べに来てね、と渡されたクレープには生クリームとカラフルなチョコレートがやや多めに盛られていて、私は照れながら、ユキは軽快にありがとうマスター、また二人で来ますと答えていた。

「口実出来ちゃったね、また来なきゃ」

ユキはくつくつと笑いながらクレープをかじる。座ってから食べなよと私はユキを緩く窘めながら席に着く。ごめんごめん、と言いながらユキも席に着き、口の端に付いたクリームを舌先で嘗めた。

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