夏に雪
初恋相手
「私の初恋はねー…すごい可愛い子なんだよ」
そうハルは切り出した。寝転がりながら話すのはドキドキするが、電気は豆電球の灯りの為私は段々と徐々にではあったが眠気に誘われていた。出そうになる欠伸を噛み殺しながら私はハルの声に耳を傾けた。
「今多いもんね、可愛い子も」
「そう、それでね、ちょっとドジな所もあるの。初めて会ったのは電車の中なんだけど…私、中学ではあんまり冴えなくて、高校では明るくしようと思ってて、今こんな感じなんだけど…電車で見掛けたその子もあんま冴えなさそうだったの。ぱっと見だけどね。つまんなそうに文庫本読んでて、退屈そうに遠くを見てた。ちょっとそんな退廃的な雰囲気に惹かれてて…」
そうなんだ、うん、うんと相槌を打ちながら睡魔は強く私に襲い掛かって来ていた。ハルの言葉はとろけだす私の意識に途切れ途切れに届いた。
「でもこれだけじゃ初恋じゃないよね、それでその子と駅が一緒で降りたホームでその子が飲み物買ったの。その飲み物がねー…ふふっ、意外だったの。勝手な思い込みだけど、その子はまじまじコーヒーを見てたのね、だからコーヒー買うのかなって思ってたら買ったの別のジュースだったの。何だか面白くて…緊張がほぐれたのを覚えてるよ」
ハルはそこまで言い終えてほくそ笑んだ。私は揺れる意識の中浮かんだ疑問を口にした。
「緊張?それいつの話なのハル」
高校に入ってから明るくしようと思っていたの下りで最近な事に違いない。加えて買ったのは飲み物?
私は頭から睡魔が退いていくのを感じる。
ハルは少し毛布から身を出して私の方を見て話している。何か意を決したようにハルは話を再開する。
「入学式の時の話だよ、コーヒーを見詰めてた子が買ったのはオレンジのジュース…買ったらすぐ、その子は行っちゃったけどね」
どくりと血液の音がした。心臓が揺れた。それは紛れも無くわたしの
「すごく仲良くなりたかった、だからすぐ傍に行った。だからあだ名を付けたの…」
じっと見詰めるハルの目は透明感に澄んでいて丸い。黒い硝子に見詰められて私の眠気は完全に飛び去った。ハルの頬に流れる茶髪が掛かる。
「なっちゃんのことだよ…」
白く伸びた腕の先が、私の頬を滑る。私は自分が置かれた事態の収集が付かずに頭が真っ白になっていた。まさか、あの日目にしていた茶髪の子がハルで、私が目の前の子に初恋として好かれていたのだなんて、私には、信じられ無かった。
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