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夏に雪
母親

普段より勢い良くドアを開ければ、おかえり真知子、あんた急に言うから何も用意出来てないけど、と母親が玄関で出迎えた。そそくさと小さく私の背に隠れるハルを母親は見付け、あらぁアナタがハルちゃんなのね、初めまして真知子…えとナツの母親です、大した持て成し出来ないけどゆっくりしていってねと言った。ハルは背中から姿を現し、こんばんはおばさん、お邪魔しますと頭を下げた。取り敢えずほら上がって、と母親はハルを家に通した。

「うわぁ、美味しいぃ!」

食卓に並べられた食事を食べながら、ハルは一口一口に声を上げた。母親の料理は贅沢では無いし、どちらかと言えばスーパーのセール品で作り上げる安めで主婦の香りがするメニューが多い。しかし、ハルの母親は想像だが余りこう言った料理を作らないのだろう。終始満面の笑みのハルに私はそんな気がした。


「良いんですか?お風呂まで…」

「良いのよ、明日学校は真知子と一緒に行けば良いでしょう?真知子は寝起きが悪いからハルちゃんが増えるくらいじゃ手間も増えないし、朝ご飯もちゃんと作ってあげるから」

母親に圧されながらハルはあ、ありがとう御座います…と会釈した。真知子、バスタオル貸してあげなさい、寝間着もね!と母親に言われ、私はバタバタしながらハルにバスタオルと寝間着を渡し、お風呂あっちだからと案内した。ありがとう、じゃあ入ってくるねとハルがお風呂に向かってから母親はクラスの連絡網を取り出すとハルの番号を探し家に電話を掛けた。

「もしもし?陽野さんの奥さんですか?遅くにすみません、同じクラスの池田真知子の母ですけども、今日娘さんの亜季ちゃんがうちに泊まりたいって言うのでお電話しました」

何となく漏れてくる相手側の声に私は耳を澄ませた。

「ええ、うちは構わないんですけれど…亜季ちゃん、今日……お母さんには申し上げ難いんですけど、万引きしそうだったって…いえ、実際には…うちの娘が見掛けて止めて…亜季ちゃん、気が動転しているだろうから私が泊めなさいって言ったんです奥さん、亜季ちゃんを絶対に責めないであげて下さい…子供って、寂しい時受け止めてあげないと悪い方向へ向かってしまいますから。余計なお世話だとは思いますがご飯もお弁当も作ってあげて下さい。何か合ったら相談のりますから…はい、はい、…失礼します」

静かに母親は電話を切り、奥さん、驚いてたわと言った。ただ、これからはもっと娘の事を考えますって言ってたから、少しずつかもしれないけど変わっていくと思うよと優しく笑んだ。本当はハルを泊めたいと言い出したのは私だったのだが、何というか母親と言うものの芯からの強さに、私は精一杯の感謝を込め、ありがとうお母さん、と言った。

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