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夏に雪
浮かぶ蟠り

家に帰り、自分の部屋のベッドに身を投げ出す。私の駅付近には大きなドラッグストアなどが無く、果てしない衝動に駆られる香水を買う事も出来ない。普段のちょっとしたものなら我慢のしようもあるが、滅多に無い今すぐ欲しいと言う物が買えないのは私の胸を逆立たせた。しかし、苛立っていても買えない物は買えない。気分を変えようと私はベッドに転がった儘携帯を開いた。入学式後直ぐに皆とアドレスを交換したので、電話帳にはそのアドレスが入っている。それ以外にも、ハルは私に自分のブログを教えてくれた。多分皆にも教えているのだと思うが、私には分からない。

お気に入りの登録画面からハルのブログのURLを選択する。きらきらと眩しいまでに装飾された画面が表示される。学校から帰ったばかりだろうと言うのに、ハルのブログには既に新しい記事がアップされていた。
ハルは良く買った化粧品の画像を載せる。自分の指先や偶に顔写真も交えて化粧品を撮る。ブログにはその画像と買った詳細や使い心地が書かれ、私は気晴らしにそれを見る事が多かった。
カチカチと携帯をスクロールする。ハルのブログはデコメや絵文字が多くて少し読みにくいのだ。それを得意としたり好きな人には楽しいブログなのだろうが、私は粗方内容を読むと飛ばしてしまう。余りに飾りが多いと気晴らしにならない事もある。私は待ち受け画面に戻り携帯を閉じた。

それにしても、ハルは本当に化粧品が好きなのだろうなと思う。この1ヶ月そこらで彼女は相当な量の化粧品を買っているように思えた。親が甘いのかバイトでもしているのか分からないが、少しそれが気掛かりでもあった。

私はベッドから起き上がると動物型の貯金箱の蓋を開け、小銭を取り出した。香水を買えるだけの金額を揃え、鞄から財布を取り出して入れる。明日、学校帰りに香水を買う事を想像して浮かれながら私は部屋を出た。

「お母さん、今日の晩御飯なに?」

台所でまな板で野菜を小気味良い音で切る母親に声を掛ける。今日は豚汁よー、と母親から声が返る。豚汁かぁ、美味しそうと返事を返しながら私はテレビを付けた。偶々付けたチャンネルでは万引き捜査の特集がやっていた。スーパーで頻発する万引き、宝石売り場での盗難、そして、ドラッグストアでの被害…

「嫌よねえ、お店の人も、盗んだ子を捕まえなきゃいけないのは嫌だろうにね」

ちらりと、テレビを見た母親が言った。私はただぞっとした。もし、そうだったら…真逆とは思えども、私は浮かんだ疑惑を取り去る事が出来なかった。

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