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夏に雪
同じ繋がり

学校を出て、駅前まで歩く。私とユキの方向は同じで、同じ電車に乗り途中でユキは乗り換えの為電車を下りるが、それまでは一緒に帰る事が出来た。ホームに上がり、電車に乗る。空いていた席に座り、美術部で描いている絵の話や、ユキの吹奏楽部の話、夏休み明けに美術部にも吹奏楽部にも有る展覧会と発表会、それに向けてお互い練習していると言う事、怠けないように頑張ろうと言う事を私とユキは会話していた。
ユキは私の話をちゃんと聴いてくれる。ハルのように一方的に喋る事も無く、アキのように逐一貶したりもしない。二人の事が嫌いな訳では無かったが、四人居る時は耐えなければならない我慢がユキとの会話には無く、何も無く続く楽な会話は私に居場所を作ってくれた。

話の途中、ユキはナツ、ちょっとごめんねと鞄から鏡を取り出し目許を見た。目許の化粧が崩れてしまったらしい、直したいからちょっと待っていてと言う事だった。慣れた手付きで目許を直すユキから視線を落とし、視線はユキの化粧ポーチに向く。ふっとユキの取り出したマスカラに見た名前を見て私は驚いた。

「ん?どうしたのナツ」

化粧途中の目をぱちくりしながら、ユキは私を見た。ユキの手に握られていたマスカラには私が初めて見て心を奪われたメーカーの名前が印刷されていた。

「DOLL'S DOLLだ…」

私は半ば戯言のように呟いた。ユキは放心気味の私を見ながら、知ってるんだ、と少し驚いた声で答えた。

「あんまり知ってる人居ないんだよねこのメーカー。私は、可愛いし使い易いと思ってるんだけど、この独特のパッケージ?が人を選ぶみたいで。まさかナツが知ってるとは思わなかったから」

ちょっと毒々しいしね、とマスカラを塗り終えたユキはそれを化粧ポーチにしまいながら付け加えた。

「でも今香水出てるんだよね。テスターもまだ使った事無いし、どんなのか分かんないんだけど、欲しいなと思ってるんだよね。今度買いに行こうかな」

ユキはDOLL'S DOLLが本当に好きなようだった。ユキが降りる駅に着くまで話題はDOLL'S DOLL一色に染まり、語り過ぎちゃってごめんね、また明日と言いながらユキは電車を降りて行った。私はと言えば、気になっていたメーカーがユキと好みと同じだったと言う事に胸の高鳴りが収まらず、電車を降りて直ぐにでも香水を買いに行きたい心持ちだった。部室での事にしろ、私の心は段々とユキに浸食されつつ合った。でもそれを、何と言うのかはまだ、分からずにいた。

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あきゅろす。
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