夏に雪
春夏秋冬
「あ…」
私は声に成らない声を出した。多分、声として発したのでは無く、鈍く反応して喉がなったような、そんなような音だった。
鈍い声を発した私に綾実は視線を合わせ、小さくまた逢えたねと言った。その途端、外に聞こえるのでは無いかと思う程心臓が高鳴り、私は勢い良く伏せ込んだ。逢えた喜びと恥ずかしさと、どうして此処にと言うものが綯い交ぜになっていた。
高鳴りを抑え、息を付きながら机を見上げる。見上げた視界には黒髪がたなびいて、私はそれを見詰めながら顔を戻した。
既に持って来た椅子に座って居たハルと綾実はつっけんどんな都崎さんに話し掛けていた。笑顔のハルと綾実の会話が巧いのか都崎さんはすらすらと喋り、話し、今までの私との無口は何だったのだろうと私は怪訝を抱きながら会話に介入した。
「なになに?」
「あっなっちゃん!伏せ込んでたけど大丈夫?具合悪くない?…今ねえ、都崎さんにも名前付けてあげる所なんだけどぉ、いい名前無いかなあ?」
「都崎だから、みやことか良いんじゃないかと思うんだけど、ハル姫はお気に召さないみたいでさ」
綾実が、ハルを指差しながら私に笑う。私は何となくふーむ、とか言いながら腕を組んだ。
四人居て、2つ揃って居る。それを組み合わせるには私が邪魔で、彼女にも無理矢理強要する形になる。私は悩みながら、私の名前なんだけどさと切り出す。
「なっちゃん?なっちゃん、なっちゃん変えちゃうの?」
ハルが置いて行かれた犬のような目で私を見た。
「いや、なっちゃんはなっちゃんで良いんだけど、少し省略してなっちゃんをなつにするの。それで、陽野亜季のハルでしょ、及川綾実のユキでしょ、それで私のナツ。都崎さんが、それで良いならだけど、…四人で、」
「春夏秋冬だ」
綾実が回答した後、わあっ、と言いながらハルが立ち上がって喜んだ。
「私たち、四人で春夏秋冬だよぉ!ハルナツアキユキだあっ」
きゃあああっ、とはしゃぐハルに都崎さんは付いて行けていない感たっぷりだったが、ハルに都崎さん、これからアキって呼ばせてねえ!と迫られ、勢いに勝てないのか押し負けたのか納得なのか、秀才都崎若菜は半ば無茶振りのニックネーム『アキ』を受け入れた。
「宜しくねぇ、アキちゃん!」
「う、うん…ほんと何にも関係無いけど……季節は秋好きだし」
照れくさそうに俯きながらハルに手を握られるアキには、少し違う喜びが混じっていた。
ー春夏秋冬。
私達の物語は、此処から始まっていく。
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