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夏に雪
はじまり

正直、そう言ったものは良く分からない。
好きだとか何とかとか、そう言ったものは、酷く曖昧だし、今の女の子はすぐ其れを口にする。グロスをたっぷり付けた唇で『好きだ』、恥じらいがちになぞった唇で『カワイイ』、そして何も無いその無垢な口唇で、



『初恋だ。』







…悪いとは思わないけど、毎度この単語からスタートする恋愛漫画はどうかと思う。新しい学校に向かう中、出会い頭にぶつかっただの、飛んできた野球ボールを拾っただの、漫画は有り得ない展開が多すぎる。今は誰でも携帯電話を持ってるし、放課後の校庭で告白だなんてナンセンス過ぎる。偶々通りすがったクラスメイトに見付かって、ブログだかツイッターかなんかでバラされるのがオチだ。恋なんかしない。大体、ちょっと前まで紺色の制服を着てた中学生をその対象として見れるのかすら怪しい。自分含め、ほぼ全員中身は喚いてた中学生だけだ。勿論、そりゃ可愛くて、男子の的になる子とか居たけど、自分には無関係だったと言うか。今の私だってただの、新しい制服に袖を通した出来損ないの中学生そのものだし、家から電車を乗り継いで辿り着く学校に対して電車乗って向かっているだけだし、親に入学祝いで買って貰った音楽プレーヤーで好きな曲を聴いて居たって周りの同じ制服とか、周りのサラリーマンとか、おばさんとかの、如何にも『新入生かぁ〜』みたいな視線や空気が嫌で堪らない。

はぁ、と胸元で溜め息を付いてから手元の文庫本を閉じる。さっき降りる手前の駅名がアナウンスされたから、もうそろそろ下車駅に着くだろう。ガタガタ揺れる電車の扉に映る自分の髪の乱れをチェックし、低音域アナウンスに従うように開かれる電車のドアに私は足を踏み出した。

…人が多い。
埋もれそうだ。
息を付くように、私は降りたホームのキヨスクによれよろと向かった。
特に何かが買いたいとか、欲求が合った訳では無かったのだが、何か、気分紛らわしに買おうと思ったのだ。
ペットボトルが並ぶ保冷機を開け、オレンジのジュースを選ぶ。朝、女の子が元気良くこのジュースの名を言うCMを見た所為かもしれないが、そんな事はどうでも良かった。会計をしている時、後ろに同じ制服の女の子が並んでいて、私は会計を済ませるとなるべく自然に気取られないように、逃げるようにそそくさとキヨスクを後にした。


去り際の視界に映り込んだ、流れるように柔らかく揺れる茶髪が印象的だった。

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あきゅろす。
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