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ブルー・デュール
桜 常 編

54

 右隣には湊が座り、その隣に新、鳴瀬は向かいに座った。
 おれたちは足が重なりそうなほど狭い空間で食事をとった。
 倉掛がいちいち食べさせようとするのをはねのけ、新と湊が煮物を押しつけ合い
しょうが焼きを取り合うのを見ながら、おれはもくもくと食べた。

 十分もしないうちにすべてたいらげたおれは、最後に苺タルトを手に取った。
 丸くて小さい中においしさを凝縮させて、おれに食べてもらうのを待っている。
 かわいい奴め。

「りゅう君、タルト好きなんだ?」

 タルトを目の高さに持ちあげて眺めていると、隣の湊が言った。
 湊の皿はまだ半分ほど残っている。
 湊は自分のタルトをおれに差し出してきた。

「僕のもあげるよ」
「えっ、いいですよそんな、自分で食べてくださいよ」
「いいからいいから」

 高二にしては双子は線が細い。
 もう少し食べて肉をつけたほうがいいと思う。

 おれが何度も断っていると、湊の向こうから腕を伸ばして新までタルトを突きつけてきた。

「りゅう君、僕のもあげるから食べなよ」
「そんなにいりませんて!」
「新は黙ってろよ」
「なんだよ、僕のものをどうしようと僕の勝手だろ」
「いちいち僕の邪魔すんなって言ってんだろ」
「はあ?」

 火花を散らし始めるふたり。
 お揃いの部屋着を着ているくせに、どうしてこうすぐ喧嘩になるんだ。
 おれがどうするべきか計りかねていると、食べ終わった鳴瀬がおれの空になったプレートを取り上げ、
手際良く自分のプレートと重ねた。

「持ってけ」
「俺かよ」

 鳴瀬は重ねたそれを嫌そうな倉掛に押しつけた。
 倉掛ももう食べ終わっていて、双子の攻防をのんびり観察していた。

「おい、もういいだろ。食わないんなら早く帰れよ」

 鳴瀬は新と湊に言った。

「そいつは具合が悪いんだよ。早く寝かせてやれ」

 そいつ、と言っておれを顎で示す。
 新と湊は同じ表情でおれを見た。

「そうなのか、りゅう君?」
「え、まあ……」
「そう。それは悪かったね。じゃあ今日は帰るよ」
「あっこれ良かったら食べてね」

 結局おれはタルトをふたつとも受け取ることになった。
 鳴瀬は半ば無理やり三人を追い出して、頭をかきながら戻ってきた。

 どうやらおれを気遣ってくれたようだ。
 普段通りに振舞っていたつもりだが、発作の影響で本調子ではないことに気づいていたのか。
 ぶっきらぼうだが優しいところもあるんだな。


   ◇




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