ブルー・デュール
桜 常 編
55
「でもだったらとっとと出ていけって話だよな」
おれは屋上で慶多と峻にそうこぼした。
購買で買ってきたパンを囲み、おれたちは日向ぼっこがてら昼食をとっている。
今日はいい天気で、あの薬のように真っ青な空がどこまでも続いている。
「だいいち倉掛たちが来たのだって、おれが食堂に行くって言ってんのに行かせなかった鳴瀬のせいじゃねえか。
押しつけがましいんだよ、気の使いかたが」
おれはフレンチトーストにかぶりついた。
「なにがしたいのかわっかんねえよなあ」
慶多と峻はパンを片手に顔を見合わせた。
ふたりともなぜかいつものテンションがない。
「りゅう……それさ、愚痴、だよな」
「あ? そうだけど」
慶多はココアのパックを温かいコンクリートに置き、立て膝をついた上に肘を乗せた。
「会長に鬱憤がたまってるってこと?」
慶多が言った。
おれは頷いた。
「ドライヤーをいつも先に使われるのが嫌だって?」
峻が言った。
勢いよく頷いた。
おれはきちんと髪を乾かして寝ないと、寝ぐせがすごいことになってしまう。
だが鳴瀬はいつでもおれを後回しにする。
早く寝かせてやれと言ったくせに、行動が伴っていない。
「使ったコップを洗わずに放置しておくのが気に入らない?」
深く頷いた。
そしていつもおれが洗わされる。
「会長は早く起きるのにお前を起こさないのも嫌だと」
「なのに変なところで構ってきて邪魔だと」
「最近は暑くなってきたからくっつかれるとうざいと」
「そう、全部気に食わねえ」
何度も頷いた。
小さなことでも降り積もるとそのうち限界がくる。
慶多と峻はまた顔を見合わせている。
ふたりはしばらく目で会話していたが、峻がおずおずと手をあげて言った。
「ご、ごめんりゅう……のろけにしか聞こえない」
「同棲してる恋人のことみてえ」
「はああっ!?」
驚きすぎて口からフレンチトーストのかすが飛んだ。
「どうやったらのろけに聞こえるんだよ!」
「いや、全部」
「それほかのところで言わないほうがいいぞ。絶対もっと噂広がるから」
「今さらだけどな」
人ごとだと思って気楽なもの言いだ。
おれは憤まんやる方ないままパンを食べ終え、ふたりと連れだって教室に戻った。
戻る途中、最近では日常と化した嫌がらせを受けた。
階段ではこれ見よがしに足を突きだされてにやにやされ、素通りすると悪口が降ってきた。
廊下では行く手を塞がれ、ごみ箱の前を通ると中身の入った紙パックを投げつけられた。
慣れてきたのですべてかわしたが、気分は最悪だった。
どうせならまた呼び出しでもしてくれればいいのだが、一度返り討ちにしているのでそれはなかった。
かわりに嫌がらせがどんどん陰湿になっていく。
何度癇癪が爆発しそうになったかわからない。
そのたびに慶多と峻に両脇からいさめられた。
衆目のあるところで暴れてもおれが悪者にされるだけだと言われれば、納得せざるを得なかった。
優しいところもあるんだな、なんて思ったおれが馬鹿だった。
あいつは疫病神にほかならない。
◇
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