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ブルー・デュール
桜 常 編

79

「あ! みっけ」

 おれは嬉しそうな声をあげた彼にさっと近寄り、足払いをして地面に引き倒した。
 背中を打ちつけてうっと息をのむ彼。
 すまん、悪く思わないでくれ。

 おれは携帯電話を閉じて走った。

「いたあああっ!」

 裏返った大声に振り向けば、少し離れたところで白いユニフォームを着たサッカー部員が
おれを指差していた。
 その背後から、同じユニフォームが大量に飛び出してきた。
 サッカー部総出でなにやってんだよ。
 練習しろ。

「待てえー!」

 さすがサッカー部、押し並べて足が速い。
 なんで生馬も追いかけてくるんだ。
 そんないい笑顔で、おれのことが好きなんじゃなかったのか。
 おまけに先頭を走ってくるのは音速の音村だ。
 友達を捕まえて賞金を得ようだなんて、枕元に化けて出てやる。

 峻は陸上部からの執拗な勧誘を蹴ってサッカー部に入部している。
 その脚力は半端ではない。
 後ろを振り返るたび近づいてきている。
 ちょっとしたホラーだ。

 後ろばかり気にし過ぎていて、前を注意するのを忘れていた。
 背の高い花壇や校舎に隠れてラグビー部が待ち伏せしていた。
 一斉に現れた部員たちにやばいと足を止めたが時すでに遅し。

「うわ、ちょっ、ぎゃああああ」

 おれを中心にスクラムを組まれ、上も下もわからなくなった。
 たちまち汗臭い男たちに担ぎあげられてしまった。
 ラグビー部は歓声をあげた。

「捕まえたー! ラグビー部が戸上りゅうを捕まえたぞー!」

 まるでラグビーボールのような扱いだ。
 軽々と持ち上げられ、悔しそうに汗をぬぐう峻たちサッカー部の姿が見えた。
 スクラムの外でラグビー部の部長らしき生徒が、嬉々として誰かに電話をかけている。
 相手は予想がつく。

「はい、はい! ……今代わります」

 部長の指示でおれは地面に下ろされ、通話中の携帯電話を押しつけられた。
 耳に当てると、わざとらしい落胆の声がした。

「捕まっちゃったねー。残念だ」
「うるせえ」
「りゅうならもしかして逃げ切るかと思ったけど、やっぱ無理だったかー。いやー本当に残念だよ。
でもこれがゲームってもんだしな。捕まえた彼らには賞金を渡さなきゃいけないし、
とりあえず――うわっ!」

 突然言葉が途切れ、なにやら不穏な物音が聞こえてきた。
 奇襲にでも遭ったのだろうか。
 しばらくもしないうちに、息せききった鳴瀬の低い声がした。

「戸上、無事か?」
「え、なんで……」
「大丈夫そうだな。今からひとりで図書館の屋上に来い」
「屋上? 屋上なんてあるのか?」
「ああ。そこで待ってるから、早く来いよ」


   ◇



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