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ブルー・デュール
桜 常 編



 従業員の通用口からおれは外に出た。
 すっかり日は落ち、商店街はひっそりとしていた。
 空気の冷たさからして真夜中に近いだろう。

 おれは相棒に電話をかけ、人気のない商店街を走った。

 相棒の車は隣の通りに停まっていた。
 後部座席に滑りこむやいなや、相棒はアクセル全開で車を走らせた。
 シートに横たわって息を整えていると、相棒が言った。

「よう、お疲れ」
「お疲れじゃ、ねえ、だろ、てめえ!」

 おれは起き上がって身を乗り出し、運転席の相棒の胸倉をつかんだ。
 煙草の匂いがぷんぷんする。
 助手席にはコンビニの袋が転がっていた。
 おれが体を張って回収しているあいだ、ずいぶんのんきに待っていたようだ。

「てめえ、あんなやばい店だなんて一言も言わなかっただろ!
ふざけんなよ、おれがどうなってもいいってのか!」
「正直に言ってたらお前行きたがらなかっただろ。大丈夫だったんだからいいじゃないか」
「結果論で話すな! 謝れ!」
「はいはい、悪かったよ。でもお前を信頼してたからできたことだ。それはわかってくれ」

 そう言われても怒りは収まらなかったが、とりあえず回収してきたピースを渡した。
 相棒は愛しげにそれを手の平で転がし、ダッシュボードにしまった。

「それよりお前、いつまでそんなのつけてるんだ。似合ってないぞ」

 言われてまだ仮面をしたままだったことに気づき、おれは後頭部で結ばれたリボンをほどいて仮面を外した。
 白地に紫で模様が描かれ、金のラメで縁取りされたやたら派手なものだった。

 相棒は男にしては艶やかな黒髪を耳にかけ、満足げに笑った。

 おれの相棒真岸友崇(まぎしともたか)は、秘密を共有する唯一の存在だ。
 おれたちは夜になるとふたりでピースを回収してまわっている。
 友崇は情報を探すことと足になるのが役目で、おれはピースがある場所に忍びこんで
回収する役目を担っている。
 そうやって要領よくこなし、ようやく軌道に乗ってきたところだ。

 友崇はもうじき三十になるが、見た目は二十五かそこらへんだ。
 髪は長めだが不潔感はなく、むしろ若づくりに一役買っている。
 健康には無関心で食事バランスはめちゃめちゃだし、煙草の量は増える一方で、
十以上年下のおれに将来の心配をさせるだめな大人だ。
 しかし父親が大企業の会長で、財力と権力は申し分ない。
 猫をかぶるのが得意なので、大概の連中は友崇が柔らかな物腰の紳士だと思いこんでいる。

 おれが再びシートに沈むと、友崇が言った。

「学校につくまで二時間はかかる。それまで寝てろ」
「そんな気になれねえって」
「興奮して眠れないか」
「おれがどんな目に遭ったか知らねえだろ。ああもう、なにがなんだか……」

 しかしそうは言ったものの、疲れていたし慣れた車の匂いに安心して、おれはいつのまにか眠っていた。


   ◇



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