桜 常 編 5 従業員の通用口からおれは外に出た。 すっかり日は落ち、商店街はひっそりとしていた。 空気の冷たさからして真夜中に近いだろう。 おれは相棒に電話をかけ、人気のない商店街を走った。 相棒の車は隣の通りに停まっていた。 後部座席に滑りこむやいなや、相棒はアクセル全開で車を走らせた。 シートに横たわって息を整えていると、相棒が言った。 「よう、お疲れ」 「お疲れじゃ、ねえ、だろ、てめえ!」 おれは起き上がって身を乗り出し、運転席の相棒の胸倉をつかんだ。 煙草の匂いがぷんぷんする。 助手席にはコンビニの袋が転がっていた。 おれが体を張って回収しているあいだ、ずいぶんのんきに待っていたようだ。 「てめえ、あんなやばい店だなんて一言も言わなかっただろ! ふざけんなよ、おれがどうなってもいいってのか!」 「正直に言ってたらお前行きたがらなかっただろ。大丈夫だったんだからいいじゃないか」 「結果論で話すな! 謝れ!」 「はいはい、悪かったよ。でもお前を信頼してたからできたことだ。それはわかってくれ」 そう言われても怒りは収まらなかったが、とりあえず回収してきたピースを渡した。 相棒は愛しげにそれを手の平で転がし、ダッシュボードにしまった。 「それよりお前、いつまでそんなのつけてるんだ。似合ってないぞ」 言われてまだ仮面をしたままだったことに気づき、おれは後頭部で結ばれたリボンをほどいて仮面を外した。 白地に紫で模様が描かれ、金のラメで縁取りされたやたら派手なものだった。 相棒は男にしては艶やかな黒髪を耳にかけ、満足げに笑った。 おれの相棒真岸友崇(まぎしともたか)は、秘密を共有する唯一の存在だ。 おれたちは夜になるとふたりでピースを回収してまわっている。 友崇は情報を探すことと足になるのが役目で、おれはピースがある場所に忍びこんで 回収する役目を担っている。 そうやって要領よくこなし、ようやく軌道に乗ってきたところだ。 友崇はもうじき三十になるが、見た目は二十五かそこらへんだ。 髪は長めだが不潔感はなく、むしろ若づくりに一役買っている。 健康には無関心で食事バランスはめちゃめちゃだし、煙草の量は増える一方で、 十以上年下のおれに将来の心配をさせるだめな大人だ。 しかし父親が大企業の会長で、財力と権力は申し分ない。 猫をかぶるのが得意なので、大概の連中は友崇が柔らかな物腰の紳士だと思いこんでいる。 おれが再びシートに沈むと、友崇が言った。 「学校につくまで二時間はかかる。それまで寝てろ」 「そんな気になれねえって」 「興奮して眠れないか」 「おれがどんな目に遭ったか知らねえだろ。ああもう、なにがなんだか……」 しかしそうは言ったものの、疲れていたし慣れた車の匂いに安心して、おれはいつのまにか眠っていた。 ◇ *<|># [戻る] |