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ブルー・デュール
桜 常 編

47

 ひととおり荷物の整理が終わると、鳴瀬はさっさとクラス委員たちを帰らせた。
 皆おれと鳴瀬がふたりきりになるのが心底嫌そうだったが、鳴瀬の言葉には逆らえず、
しぶしぶ出て行った。

 ただでさえ散らかっていたおれの部屋は、鳴瀬の荷物のせいで足の踏み場もなくなっていた。
 一、二年生の部屋は十畳ほどあり、二段ベッドと勉強机とクローゼットで部屋の半分を使っている。
 ベッドと机のあいだの残り半分のスペースには、おれの服や授業のプリントが山積みになっていた。
 クラス委員の連中は、鳴瀬の荷物をきちんと収めるためにはおれのものがどうなろうと
おかまいなしだった。
 片方のクローゼットを鳴瀬用にするため、中に入っていた服はすべて床に捨て置かれている。
 おれは仕方なく、散乱している服を物置がわりにしている二段ベッドの上に放り投げた。

 鳴瀬は持ちこんだ黒いクッションに座ってマットレスに寄りかかり、
ローテーブルの下に足を投げ出してリラックスしていた。
 おれは普段の場所をとられてどこに落ち着けばいいのかわからず、とりあえず勉強机の椅子に座った。
 だが鳴瀬は見下ろされることが気に入らないのか、おれを無理やり隣に座らせた。

「二人部屋は久しぶりだな……。なんかもっと広かった気がするんだが」
「悪かったな散らかってて。さっきまではもっとちゃんとしてたんだよ」
「排水溝が壊れたのは俺のせいじゃねえよ」

 どうせそれもおれの部屋に居座る口実なのだろうが。

 おれが黙っていると、鳴瀬が言った。

「なにも聞かないのか?」
「聞いたら、ちゃんと教えてくれんのかよ」

 生徒会室の二の舞はごめんだった。
 今は腰がだるくて仕方がないし、強引に広げられたあそこがじくじく痛む。
 また襲われたらたまったものではない。

「お前が話せば、教えてやる」
「なんだよそれ、教える気ないんじゃねえか。性格悪いよな、あんた。
なんであんなに人気なのか不思議でしょうがねえよ」

 そう言うと、鳴瀬は心外だとばかりに冷たい視線を送ってよこした。

「情報を得たいのなら、それ相応の情報を渡すのは常套だろ。お前こそ俺になにも話す気ないんだろうが」
「対価なら十分すぎるくらい支払っただろ」

 体で。
 忘れたとは言わせない。
 恨みをこめて睨みつけると、鳴瀬は口端をつり上げた。

「そうだったな。じゃあ少しだけ教えてやるよ。俺と青波はピースを集めていて、情報源は本條たちだ」
「え、あの双子?」
「ああ。新も湊も頭が良くてパソコンに強いのは知ってるだろ? 本当はあんなもんじゃないんだ。
ふたりはわずかな痕跡も残さずハッキングすることができる。大概のパソコンには侵入できるはずだ」
「すげえな」

 おれは友崇にピースの場所を教えてもらっているが、友崇は実家から情報を得ている。
 様々な事業を多角経営する大企業である真岸グループの、優秀な産業スパイを使っているはずだ。
 本條兄弟は高校生でそれと同等の力を持っているのか。
 末恐ろしい。

 鳴瀬はそれ以上なにも話そうとしなかった。
 もっと知りたければまた抱かれろという意志表示なのだろうか。

 押し問答していてもらちが明かないので、おれはあきらめて立ち上がった。
 最後に一番知りたかったこと――鳴瀬たちは施設の人間なのか、さりげなくたずねると、
鳴瀬はおれの心を見透かそうとするような目で言った。

「いいや」

 そう言われても、信じられるわけがない。


   ◇




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