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ブルー・デュール
桜 常 編

31

 放課後、帰ろうとした矢先に携帯電話が震えた。
 着信ランプがついている。
 倉掛からだった。

「もしもし」
「りゅう、まだ教室にいるー?」
「はあ、いますけど」
「じゃあ今から生徒会室に来てー」
「え?」

 補佐役としての仕事はすべてこなしたはずだ。
 だが倉掛は当然のように言った。

「これから球技大会の打ち合わせだから。待ってるからねー」

 返事も待たずに電話は切れた。
 追試の対策をしなければならないのに、またこれか。

 おれは憂鬱な気分を引きずって、生徒会室に向かった。
 試験から解放されて、足取りも軽く寮に帰っていく生徒たちが恨めしい。

 ノックもせずに生徒会室のドアを開けると、さわやかな空気が流れこんできた。
 会長のデスク脇にデパートで買った空気清浄機が置いてある。
 これは有意義な買い物だったようだ。
 部屋の埃っぽさがなくなり、森林の中にいるようにすがすがしい。

 生徒会メンバーは勢ぞろいで、それぞれ自分の席についておれを待っていた。
 おれが倉掛の隣に座ると、鳴瀬が口火を切った。

「よし、じゃあ始めるぞ。今日は球技大会までの予定を確認する」

 おれは向かいに座っている新からプリントを受け取り、目を通した。
 一枚目は球技大会の概要で、二枚目は大会までのスケジュールだ。
 生徒会や体育委員や学校行事などの予定が組みこまれている。
 これに沿って準備を進めるらしい。

 鳴瀬はてきぱきと役割分担を決めていったが、おれも当たり前のように
頭数に入れられていることに疑問を感じる。
 おれは生徒会に入ったつもりはさらさらないのだが。
 それとも目の届くところに置いておいて、監視しつつ正体をあぶり出す作戦なのか。
 どちらにしろ、気が抜けない。

「今回の全学年対抗ドッジボール戦は楽しそうだな。クラス全員強制参加にボール二個か。
コートは広くなるけど逃げ場がないね」

 倉掛の言葉におれは心の中で同意した。
 全学年がランダムに振り分けられるので、どこと当たるかわからない。
 スポーツなのだからルールに則ればいいストレス発散になりそうだ。
 三年一組と当たらないかな。
 鳴瀬と倉掛がいるクラスだ。

 おれがのんびりプリントに目を通していると、隣で倉掛がなにやらごそごそやっていた。
 気にせず放っておいたが、間違いだった。
 倉掛はおれの鞄を漁って今日もらった答案用紙を引っぱりだしていた。

「あっちょっと、なに見てんですか!」
「りゅう、これは……」

 倉掛が苦笑いしながら眺めているのは化学の答案だ。

「化学、苦手なの?」
「苦手っていうかっ、今回はちょっといろいろあって勉強にならなくて……」
「でもこれじゃ、追試だろ?」
「追試?」

 のけぞるようにして回転椅子に深く腰かけた鳴瀬が、馬鹿にしたような声をあげた。

「お前、入学早々追試受けるのかよ。先が思いやられるな」
「今回だけですよっ!」
「古典も苦手みたいだねー」

 倉掛は他の答案まで探っている。
 二年でダントツトップだった本條兄弟がいる前で、おれの醜態をさらすのはやめてほしい。
 新と湊は倉掛から古典の答案を受け取り、ふたりでじっと眺めている。
 やめてくれ。

「りゅう君」
「なんですか……」
「これはもうちょっとがんばらないとねえ」
「来年からもっと大変かも」
「わかってます、だから返してもらえませんか……」

 おれがそっちに気を取られているうちに、化学の答案は鳴瀬の手に渡っている。

 かくしておれは、追試の前に主要教科の個人指導を生徒会の方々から受けるはめになった。


   ◇



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