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ブルー・デュール
桜 常 編

107

 倉掛は地面に座りこんだまま、木田川に言った。

「おい、ピースって一体なんなんだ?」
「俺が知るか! ただ今わかっていることは」

 木田川はやけになったのか、ひきつり笑いを浮かべて両腕を大きく広げた。

「この町のどっかに、ピースを生み出した得体のしれないブツが眠ってるってことだよ!
戸上はその一部を自分のものにして、超能力みてえな力を使えるようになったんだ!」

 おれはナイフの柄を痛いほど握りしめた。
 おれにはわかる。
 体の中に渦巻く白い光のようなもの。
 おれを呼んでいたピースたちの声が聞こえる。
 見つけて、と囁いている。

「戸上」

 鳴瀬がおれの名を呼んだ。
 おれはナイフを胸の前で構え、鳴瀬を睨んだ。

「頼むよ。ピースを、おれにくれ」

 おれは再び鳴瀬に切りかかった。
 鳴瀬は紙一重のところで避けていく。
 おれの動きを読み、足さばきだけで避け続けておれに触れようとしない。
 受け止めようとも、反撃しようともしない。
 ただただ、成すすべなくおれの攻撃を避けている。

「戸上、やめろよ! なにがあった? きちんと話せ!」
「うるさい、とにかくピースを渡してくれればそれでいいんだ! 場所を知らないなら双子に今すぐ連絡をとれ!」

 鳴瀬は真正面から突きだされたナイフを後方に飛んで避け、乱れた前髪をかきあげた。

「お前、正気じゃねえぞ」
「おれはまともだ! おれの頼みを聞いてくれよ!」
「じゃあ、なんで泣いてるんだ?」

 言われてようやく視界が曇っていることに気がついた。
 おれは袖で目をこすって視界をクリアにした。

「手を出すな、青波!」

 鳴瀬が怒鳴った。
 はっとして後ろを向くと、いつの間にか立ち上がっていた倉掛が、背後から近づこうとしていた。
 倉掛は鳴瀬の剣幕に大人しく下がって様子を見守った。
 猫背気味でまだ腰を押さえている。

「戸上、お前がそんなことしたがるはずがねえだろ。俺に話せよ」
「話したってどうにもならない……ピースをもらうしかないんだ!」

 言葉にしてしまうとますます苦しくなり、おれはみっともなくぼろぼろ泣いた。
 あとからあとから涙が溢れたが、拭おうとも思わなかった。
 体が乾いて震えて薬を欲している。

「なんで今さらそんなに欲しがるんだ? 目を覚ませよ!」
「無駄だよ」

 背後から声がかかった。
 十年間聞き慣れた声だ。
 鳴瀬は忌々しげに舌打ちした。

「……てめえのせいか」
「りゅうはとっくに俺のものだ。お前の言うことなんて聞くかよ」

 友崇の嘲るような笑い声が、見えない傷口に沁みた。

「ほらりゅう。遠慮はいらない。俺があとでどうとでもしてあげるから。早くしないとお薬あげないよ」

 倉掛が不審そうに眼を細めた。

「……薬?」

 鳴瀬はすべて理解したようだった。
 わずかにこうべを垂れ、肩を落とした。

「ああ、そういうことか。薬のために俺を敵にまわすってわけか」

 再びおれと目を合わせた鳴瀬は、迷いのない表情をしていた。
 こんな状況なのに、おれはほんの少しだけその真摯な顔に見とれてしまった。

「なら本気でこい。本気で相手してやる」
「凌士」

 倉掛が驚愕に目を見開いた。



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