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サビイロ契約

52

 茶髪のハンターは、バイラが珂月のほうを向いた隙に背後から襲いかかった。
 彼のナイフはバイラの首筋に刺さった。
 しかしバイラの皮膚は固く、とどめを刺すまでは至らなかった。
 傷つけられたバイラは怯えて少し浮きあがった。
 珂月と茶髪のハンターはバイラの次の行動を待った。
 逃げるならよし、再びかかってくるなら今度こそ息の根を止める。

 駐車場は敵味方入り混じりの乱戦状態で、バイラはまだまだたくさんいる。
 珂月は茶髪のハンターの後ろに別のバイラが近づいているのを見つけ、戦慄した。

「危ない、後ろ!」

 茶髪のハンターはぎょっとして振り返ったが、そのときにはすでにバイラは、彼を射程圏内に収めていた。
 茶髪のハンターは腰のあたりを三本指の前足でむんずと捕まえられた。
 ハンターが叫び声をあげてバイラの足に斬りつけると、バイラはハンターを放り出した。
 しかし、地面に落とされたハンターがうめいていると再びやってきて、今度は前足両方でハンターの肩と足をがっちりつかんで動けないようにした。

「くそっ」

 珂月はハンターをわしづかみにして飛翔したバイラを追おうとしたが、目の前の手負いのバイラが威嚇してくるので動くことができなかった。

 珂月たちは劣勢に立たされていた。
 バイラと同数程度しかハンターがおらず、味方の数が少なすぎた。
 一人で一匹のバイラを相手にするのは難しく、一人、また一人と捕えられて空に連れ去られていく。

 不意に珂月の体ががくんと揺れた。
 後ろからバイラに襲われたとわかるのに時間はかからなかった。
 珂月は足をつかまれ、体が宙に浮いた。

「うわっ……」

 逆さまに持ち上げられた拍子に、手からサバイバルナイフが飛びだした。
 まさか自分が、と息が止まる。

 視界が反転し、灰色の地面が上になる。
 中指の爪がアスファルトを虚しくひっかいた。

 珂月はブーツをはいた二本の足を視界の端に捕えた。
 ルザだ。

 ルザは身をかがめ、その場でジャンプした。
 ダラザレオスの跳躍力で簡単にバイラの頭部まで到達し、珂月をつかんだバイラの側頭部を蹴りつけた。
 バイラはバランスを崩し、ルザは強引にバイラの前足をこじあけて珂月をもぎとった。

 ルザは珂月を小脇に抱えて地面に降り立った。
 低い声で唸るトカゲ型バイラを睨み、口元に薄い笑みをたたえる。

「おいてめえ、俺のものに手を出そうとしたってことは、俺に刃向かうってことだな」

 ルザは硬直している珂月を離した。

「いでっ」

 珂月は地面にくしゃりと倒れた。
 ルザは珂月の正面に立ち、指の骨を鳴らした。

「俺に刃向かうとどうなるのか、教えてやるよ」

 ルザは素手でバイラに飛びかかり、バイラの顎を膝で蹴ってから押しつぶすように頭頂部に肘鉄を落とした。
 骨が割れる音がして、バイラは白目を剥いて横ざまに倒れこんだ。
 珂月はバイラの血液に濡れた地面に座りこんだまま、口を開けてぽかんとしていた。

 ルザは手当たり次第にバイラを蹴散らしていった。
 ほかのハンターが悪戦苦闘しているところに割りこみ、バイラにとび蹴りを食らわせ重いこぶしの一撃で大人しくさせる。
 ハンターたちも珂月と同じように、口をあんぐりと開けてルザの荒技に見惚れた。

 そのうち連絡を受けたハンターのチームが応援に駆けつけてきて、一気に勢力が逆転した。



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