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歪みのリボーン
たった一人のアリス


持田は、仕立て屋ハルの用意した服をかたくなに断っていた。

それに対し、ハルも負けずに服を着せようとしていた。

「着てください!」

「嫌だ!!」

「着てください!!」

「嫌だ!!!」

「着・て・く・だ・さ・い・!!」

「い・や・だ・!」

「アリスっ!」

「俺はアリスじゃねぇ!!
フゥ太!
テメェが俺をアリスなんて呼ぶからこんなことになったんだぞ!
こいつを止めろ!」

持田がお茶を飲んでことの成り行きを見守っていたフゥ太に怒鳴った。

ビクッと大きく肩を揺らしたフゥ太に持田とハルの動きが止まる。

「だっ、だって、アリスはアリスだもん…
僕、僕は本当のことっ、言った、うっ」

フゥ太が顔を上げる。

うるうると瞳に溜まった涙はもう少しで頬を伝いそうだった。

ハルと持田は顔を真っ青にする。


ハリネズミの子を泣かしてはいけない


知らない筈なのに、持田はそれを知っていた。

フゥ太の背中のものがそわそわと動いている。

まずい

「悪かった、そうだな、俺はあー…アリスだから!
お前は悪くないぞ」

アリスと認めるのに若干抵抗があったが持田はそう言ってフゥ太の頭を撫でようと手を伸ばした。

「何やってるんですか?!
早くそこを離れて下さい!
もうそこまで涙が出ていたら手遅れです」

またなまはげの着ぐるみを装着したハルが遠くから持田に叫んだ。

「それを早く言えよっ!」

「うわぁぁん!」

持田が叫んだのとフゥ太が大きな泣き声を上げたのは同時だった。


そしてザワリとフゥ太の背中にある針山が大きく揺れ、ザクザクザクッと辺りに突き刺す様に飛び散った。

もちろんフゥ太の直ぐ側にいた持田にも鋭く尖った針が飛ぶ。

「アリスーっ!」

「うわぁぁっ!」

ザクザクッ

持田の目の前が真っ黒になった。

まるで何かに抱き締められたように、息苦しい…

だが棘に刺さった様な痛みは襲ってこない。

ポタリと持田の頬に液体が落ちた。


「君は…
困った人ですね
アリス、ハリネズミの子は泣かしてはいけないと知っていたでしょうに」


聞き覚えのある声に、持田はいつの間にか閉じていた瞳を大きく見開いた。


見上げるとあの赤と青の少し呆れたようなまなざしがあった。



「………骸?」








ハリネズミの子を泣かしてはいけないよ

何故ならあの子は悲しいと針を飛ばすから

何千もの針が愛しい君を突き刺してしまう

駄目だよアリス

君はみんなに愛される者なのだから

不思議の国でたった一人の

僕らのアリス





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あきゅろす。
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