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歪みのリボーン
蜂蜜ミルクの記憶

「ほい」

ほんわりと甘い香りが骸の鼻孔をくすぐった。

「ありがとうございます」

骸は少し口で冷ましてから口に含んだ。

甘い味が口内に広がり、舌を動かしじっくりと味を堪能する。

「美味しいです」

ニッコリ笑ってそう言うと山本も嬉しそうに笑った。

「君はこんな時間に何をしていたんですか?」

「ん?
俺は…鍛練かな」

どうもはっきりとしないもの言いだったが、骸はさして気にした様子は見せず、そうですかと頷いた。


山本武が自分の前に現れたのは偶然じゃない。

骸はそう思った。
部屋には隠しカメラが存在する。
骸はそれに気付いていた。
面倒見るとか心配だとか言うのは本当は信用してないからだ。

今だって山本が骸の側から離れないのは見張っているから。


所詮、霧の守護者だと言っても僕は罪人ですからね。

それでもこの飲みものはとても美味しく感じた骸は、今は深く追求しないことにした。

ヴィンディチェに能力を下げられたせいか、クロームに意識が飛ばせない。

下手に動かない方がいいだろう。

今は真夜中…
部屋は静まりかえっている。


「これ、本当に美味しいです。
どうやって作ってるんですか?」

意外にも沈黙を破ったのは山本で無く骸だった。

骸の何気ない問いに、山本は自分の分を一口飲んで口を開いた。

「相当気に入ったのな。
ミルクを暖めて、蜂蜜を入れるだけだぜ」

「それだけ?」

「まあちょっと俺のはコツがあるけど、一般的な蜂蜜ミルクはそれで出来る」

骸はほお、と呟いてまた一口飲む。

甘くて、優しい味…

暖かくなって思わずほっと安心するような蜂蜜ミルク。

「………昔、母さんが俺に作ってくれたんだ」

山本は懐かしげな表情でそう言った。

「なるほど、母親直伝と言うことですね?」

ニコリと笑って骸がそう言うと、山本は軽く首を横に振った。

「いいや、母さんが俺が5歳の頃に死んで、その後自分で母さんの味に近いのを作った。
味を近付ける為結構研究したんだぜ」


トントンと一差し指で蜂蜜ミルクの入ったカップを叩いて山本は言った。

「5歳の頃に母親が?」

「あんま覚えて無いけどな」

骸は蜂蜜ミルクと山本を交互に見た。

いつも笑顔で明るい山本武。

甘く、自分を優しく包んでくれるような蜂蜜ミルク。

「じゃあ…」

「ん?」

「この蜂蜜ミルクは、君と母親との大切な絆の結晶なんでしょうね」

これを飲めば、親子がどんなに親しかったかが分かる。

そして、

そんな優しさを、骸は知らない。

母親と言う、何ものにも変えがたい存在を知らない。

だからこの蜂蜜ミルクは、骸にとって初めての母親の温もり。

骸に言われた言葉に山本はしばし黙りこんで、照れくさそうに頭を掻いた。


「……ご馳走様でした」

骸はコップの中を空にして、高い椅子で浮いていた足を床に下ろした。

「あっ、送ってくぜ」

そのまま部屋を出て行こうとする骸を山本が追う。


「また飲ませて下さいね、山本武」

「ああ。
……フルネームで呼ぶのって面倒じゃね?
武でいいぜ」

「そうですか?」

「ああ、俺も骸って呼んでんしさ」

「わかりました。
では武、おやすみなさい」

骸は自分の部屋の前で頭を下げて中に入った。

「…おやすみ、な」

そう言って山本も自分の部屋に帰って行った。


骸には言わなかったことがある。

実は山本は、今迄知り合いに母親の話しをしたことがない。

親友で、今や自分のボス…綱吉にさえ話したことは無い。

骸が初めてだった。
蜂蜜ミルクを上げたのは、母親の話しをしたのは、今の骸が似ていたからだ。


昔の、自分と…

上辺だけの笑顔。

本当は他人を疑って、気を張って、怯えていた小さな少年と…

あの時、少年が何も知らずに父親を追わなければ、母親は死ななかった。



無知な少年は、自分の弱さを思い知った。

そして、敵に隙を見せぬよう、無知な少年は仮面を被る。

己を守る為に






蜂蜜ミルクの暖かい熱が、仮面を溶かすまで、少年は本当の笑顔を取り戻せ無かった。



骸にも、安心出来る、心からの笑顔をしてもらいたい。

山本は、蜂蜜ミルクを親子の絆の結晶だと言ってくれた骸にそう思った。


蜂蜜ミルクを入れてあげることは、山本にとって最大級の愛情表現である。







捏造どんだけ〜

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あきゅろす。
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