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心色 (第1章)
scene iii

「うわ……これは酷い……」

 小池さんのマンションから、徒歩十分ほどの距離に、それはひっそりと佇んでいた。
 古びた外観、電気の通っていない街灯。手付かずの庭は、様々な種類の雑草が伸び放題。テレビなどで紹介されてもおかしくない、まさに『心霊スポット』と言わんばかりの、小さめの廃病院。勿論、辺りは霊気でどんよりしている。
 本当は、霊道を通ってまだ霊が侵入して来る恐れがある為、結界を張って守る為にカヤに残るように頼み、五堂一人でここに向かおうとしていたのだが。カヤは「絶対一緒に行く!!」を連呼したので、五堂は仕方なくベッドの周りに独鈷杵(※とっこしょ:密教用具の一つ)を刺し、簡易版結界を張った。カヤの結界より劣るが、何もしないよりはマシだ。
 そして、この廃病院までは、何と白猫が道案内してくれた。二人が協力者だと分かったのだろう。本当に動物は頭が良い。恩人の部屋へと続く霊道を辿り、一番近いルートを通り抜け、到着する事が出来た。

「早いとこ何とかしないと、やばいな……」
「ねっ! そういえばココ、心霊スポットで有名な所だよ! 心霊マップに載ってた♪」
「な、なんてモノ読んでるの……」

 まさか本当に有名な所だったとは。しかも助手は既に情報を得ていた(怪しげな物で)という何とも微妙な流れに、五堂は顔を引き攣らせた。

「まぁ……いいや。ざっと見た所、何らかの原因によってここに溜まっている霊達が、霊道を通り、その通り道である真桜さんの部屋に入ってる……。でも部屋には『出口』の役割をする空間が無いから溜まり続けてる。それで、真桜さんは霊障を受けて、動けなくなっている………と。こんな感じかな」
「じゃあ、その原因を探して何とかしなくちゃいけないよね!」
「うん、そうだね」

 カヤの意見に同意したものの、五堂は内心、穏やかではなかった。黙って見ているだけでも、その悪霊の数は数十体を超えている。そして、白猫はそれらに向かいずっと唸り続けている。

「(しかし……かなりの量だな……一人で行けるかなぁ……。……こんな時、“彼”が居てくれたら…………なんて思っても、仕方ないか)」

 少し俯いて、苦笑を浮かべた後、五堂はカヤへと向き直る。

「カヤ。ちょっと大変かも知れないけど、この病院を囲むように結界って張れる?」
「えっ? こ……こうかなぁ??」

 その頼みを受け、カヤは両手を左右に適当に動かす。すると、徐々にそこから透明な膜が現れ、自分達と病院をまるまる包み込んだ。

「あっ、出来たぁ♪」
「うわ、予想以上……凄いよカヤ!」

 思ってもみなかった出来に五堂は関心し、有能な助手の頭をぽんぽんと撫でてあげた。

「さて……始めますか」
「ファイトぉ〜!!」


 カヤに笑顔で見送られ、五堂は颯爽と悪霊達の除霊を始めた。次々と襲いかかって来る霊を短めの真言や御札で消滅させ、攻撃は(ドッジボールで鍛えた)素早い身のこなしで避け続ける。しかし、順調に思えていた矢先――

「ご、五堂、後ろっ!!」
「!?」

 カヤの声に気付き慌てて振り返ると、束になった霊が背後から覆いかぶさろうとしていた。

「やば……っ」

 防御用の御札を取り出そうと内ポケットに手を伸ばした、その時。右横から突然白い影が現れ、霊の山へと飛び掛かって行った。

「お、お前……」
「にゃんこ、お手柄ぁ〜!!」

 それまでカヤを守りながら彼女の前で戦っていた白猫が、一瞬で五堂の元へ飛んで来て、助けてくれたのだ。

「…………有り難う」

 五堂は白猫に向かって微笑み、礼を述べた。ニャーと可愛らしく鳴くその子は、「一緒に頑張ろう」と言っているように思えた。


 その後。五堂と白猫は、協力して悪霊達と戦った。

  まさか、猫と背中合わせで戦う日が来るなんて……。
  しかし、白い色には何だか縁があるなぁ……。

 隣で共に戦う白い影を見て、その色に少しの懐かしさと優しさを感じながら、五堂は最後の一体を消し去った。




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あきゅろす。
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