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心色 (第1章)
scene i

 9月某日

 カヤが助手として仲間に加わってから数週間。幾つか受けた依頼は、どれもまあまあ楽にこなす事が出来た。それも、カヤの治癒能力と結界のおかげで、助手としてはかなり頼りになってはいるのだが……。
 その、前回判明した結界を張れるという能力。今だに何故そんな事が出来るのか不明な上、“これといった印を結ばなくても張る事が出来る”という驚きの事実も判明した。いくらその謎を解こうとしても皆目見当がつかず。もう何だか面倒くさくなってしまったので、五堂は考えるのをやめた。そして、そんな素晴らしい能力に、カヤ本人は歓喜しまくった……のは言うまでもない。
 更にカヤには、一度言い出したら聞かない所がある。その為、五堂がどれだけ注意しても勝手に大胆な行動を取ったり、霊を逆上させたり……と、対応に困る事もしばしば。その中でも一番の難点が、暴走運転だ。カヤは毎回タクシーを使用するのを拒み、ご自慢(?)の超高速無免許運転で、依頼人宅へと向かっている。いくら回数を重ねても慣れない(それどころか逆に恐怖感が募っている)ジェットコースター並のスピードで、五堂は仕事前からへとへとになってしまうのだ。
 移動に関してもう一点。北川タクシーだった頃は、帰りに眠って帰れたのだが。カヤの暴走運転に変わってからはそれも出来ず、確実に翌日の授業の妨げとなっていた。「授業はしっかりと受ける」という利亜の信念は、睡魔という大敵によって、何度か曲げられそうになっている。嫌ならはっきりと言えば良いのだが、そこは前述の通りで……。一度走り出したら止まらない彼女には、何を言っても無駄なのであった。

 そんな狂瀾怒涛な毎日を過ごしつつ、知らぬ間に学校では体育大会の時期になっていた。今日の体育の授業は、その大会に向けての練習だ。因みに栗川高校での体育は、男女別に分かれ、更に一&二組・三&四組との合同授業である。この日の授業内容は、バレーボール。四組の利亜は三組の華夜と同じチームになり、練習試合をしていたのだが……。


 バシイッ!!

「うわぁ、華夜ちゃん今日も絶好調だね!!」
「えへへ〜♪まっかせといて♪」

 華夜は得意のレシーブを鮮やかに決めた。だがしかし、一方の利亜はと言うと……。

「利亜、サーブ頑張ってね!」
「う、うん……」

 すかっ

 …………。

 静かに相手チームへと移るサーブ権。

「神宮さん、もっとちゃんとボール見て!」
「す、すみません…………はっ」
「ちょっと、避けないで打ちなさい!!」
「す、すみません先生!」

 ………………。

 ここまで見て頂いて、何となく分かるだろう。利亜は、体育が大の苦手だった。バレーだとサーブは入らない。ソフトボールも基本空振り。マット運動も前転しか出来ない。唯一得意なのはドッヂボール。しかし、内野で逃げる方のみだ。……仕事の際に霊からの攻撃を上手くかわし続ける事が出来ているのは、この能力(?)のおかげなのである。対する華夜は、ふんわりとした見掛けによらずスポーツ万能。特に長・短距離走は学年トップクラスで、陸上部に勧誘された程だ。

 こんな正反対の二人がどうして親友になったのか。
それは……数か月前、1997年の5月。栗川高校で年に一回開催される、春のマラソン大会で二人は出会った。
 この日、華夜は友人の結英と一緒に完走する約束をしていた。その結英は四組の生徒。彼女は「座席が近く仲良くなった利亜も混ぜて一緒に走ろう!」と言い、三人で走り始めたのだが……。何と、結英が「何か今日調子いいから、早く終わらせよっかな〜☆」と、ペロッと舌を出しながら先に行ってしまったのだ。
 残された二人は、片方は俊足、片方は絶望なまでの鈍足。利亜は気を遣い、華夜にも先に行くように促したのだが、彼女はゆっくりと利亜に合わせて走ってくれた。そして、一緒に会話をする内に意気投合(華夜のペースに巻き込まれたとも言えるが)し、完走する頃には今の二人のような関係が出来上がっていた。
 お互い友人は何人も居たが、『親友』と呼べる存在はそれまで居なかった。その事を知った華夜に、「じゃあ、あたしたち、今日から親友ね♪」と極上のスマイルで迫られ、その場の勢いで承諾したのである。
 それからの展開は、異常なまでに早かった。華夜が所属する放送局に勧誘され、流されるように入部し、勉強が苦手な彼女に毎日のように教え。逆に体育の時間にミスをした際はフォローして貰ったり(女子の体育の授業は怖い)……。
 彼女のお陰で、男女・学年を問わず共通の友人がに増えた。そしてヴィジュアル系バンドのCDを強制的に大量に貸され無駄に詳しくなったり(ちゃんと聴いてあげているのが偉い)、これまた強制的にライブに連れて行かれたりもして……。
 たった数か月間で、利亜の周りの環境は目まぐるしく変わっていた。……決して忘れてはいけない、過去のある出来事をも霞ませる程に――


 そんな忙しくも楽しい日々を送りながら、利亜は今日もしっかりと部活動を終えて帰宅した。居間に入り一息ついた後、ふと電話を見ると、赤いランプが光っている。数日振りの依頼だ。




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あきゅろす。
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