心色 (第1章) scene iii 「(一時はどうなるかと思った……)」 がちゃりと扉を閉め、五堂は小さく溜息を漏らす。 「ごめんなさいね、陰陽師さん。私としたことが……。いつもは開けっ放しなのに、どうして今日に限って閉めちゃってたのかしら」 「いや、それは逆に危ないと思いますよ」 漸く無事に(?)屋敷内に入った後。これまただだっ広い玄関でブーツを脱ぎながら、五堂は依頼人の無用心な言葉にサクッとツッ込みを入れた。 「そうかしら? じゃあこれからはなるべく閉めた方が良いのかしらねぇ、陰陽師さん?」 「はい、なるべくではなくその方が……。……あの、私、霧島五堂と申します。お好きな呼び方で構いませんが、“陰陽師さん”とだけはちょっと……」 「あらっ!! ごめんなさいね、霧島陰陽師さん!」 予想外の返答に、五堂は脱ぎ終わったもう片方のブーツを手にしたまま、その場でコケてしまう。 「あらあら、大丈夫??」 「は、はい、すみません……。あの、早速ですが今日は一体どのようなご依頼でしょう?」 何を言っても無駄かもと思った五堂は、(本当はもう早速でも無いのだが)今回の依頼内容について切り出した。 「そうそう、依頼ね! 私の娘の事なんですけど……。そういえば貴女、娘と同い年位だわ! タメ口使っちゃってもいいかしら? うふふ♪」 「は、はぁ……。もう何でもどうぞ……」 マイペースさに最早溜息をつく気も起こらず、五堂は力無く了承した。 「じゃあ遠慮なく♪その、私の娘ね。二・三日前から元気が無くて、部屋からもあまり出て来ないの。元気だけが取り得みたいな子だから、もう心配になっちゃって……」 「そうなんですか。その娘さんはどちらに?」 尋ねると女性は、「二階の部屋よ。ついて来てね」と答え。ゆっくりと階段を上り始める彼女の言葉通り、五堂は黙ってついて行く。ウィリアム=モリス調の美しい壁紙や、階段を縁取る手摺りの細かい彫刻も見事だ。 「凄く豪華で綺麗なお宅ですね」 「あら、有り難う♪でも広すぎるのも困るわよ〜。夫は他界してて、今は娘と二人暮らしだから、お掃除とか大変なの」 「そうなんですか……」 聞いてはいけない事を言ってしまったか。五堂は少し後悔して、口を噤む。そんな中、正面に木製の大きな扉が徐々に見えて来た。 「ここが娘の部屋よ。どうぞ開けちゃって♪」 「はい、では……」 促されるままに部屋の前に立ち、念の為数回ノックをしてから扉を開ける。 「失礼します。……………………!?」 部屋の中を見た五堂は、驚きに目を丸くして硬直した。 豪華絢爛なアンティーク調の家具や美しいカーテンに目を惹かれたのもあるが、それらと不釣り合いな漫画・雑誌・CDの数々が、棚の中をぎっしりと占領している。そんな、新旧ごちゃ混ぜの騒がしい部屋の中、五堂を絶句させた存在とは―― 「―――――――――華夜!!?」 [*前へ][次へ#] [戻る] |