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心色 (第1章)
scene v

「…………カヤ!?」

 近付いて確認しなくても分かる強力な結界に、五堂は仰天する。

「……うぇっ!? 何コレ、バリアー?」
「古いよソレ……。じゃなくて、何で結界を!?」
「何でって…………あれ、何でだろ??」

 カヤは自分の両手をまじまじと見ながら首を傾げる。五堂はそれに対して何か言おうとしたのだが、後方から凄まじい霊気を感じ、今はやめる事にした。

「まあ、この事については後で聞くとして……。先にアイツを何とかしなきゃね」

 向き直り、内ポケットから黄色の半紙に赤字で文字が書かれた、派手な御札を取り出す。

「真っ直ぐ天界に送ってあげようと思ってたけれど、ちょっとやり過ぎたようだな」

 井戸の前に浮かぶ女の霊は、黒い霊気を纏い、目が赤く光り……完全に悪霊と化していた。こうなってしまっては、もう救いようがない。五堂は心を決めると、右手に持った御札を眼前に掲げ、長い真言を唱え始める。

 オオオオオォォン!!!

 鈍く光る霊気の球を次々と放って来るが、五堂はどれも華麗に避け続ける。外れた球はカヤの作った結界にぶつかり、じゅっと音を立てて消えて行った。そして……。

「成仏しな! ――オン・アラハシャ・ノウ!!」

 真言と共に、手にした御札を女に向かって勢い良く放つ。

《おおおおおお………………!!!》

 攻撃が見事に直撃した悪霊は、苦悶の声と共に灰色の煙となり。夜の暗闇の中に消えて行った。


「やったぁ〜!! お見事、五堂♪ ……あっ」

 カヤは両手を高く上げ、バンザイをしながらジャンプして喜んでいる。すると突然結界が消え、慌てて跳ぶのをやめた。
 一方、その結界に守られてはいたものの、恐怖感と、女の霊の複雑な過去を知ってしまった事とで、藤田さんは全く動けないままでいる。五堂はそんな彼女にゆっくりと歩み寄り、優しく話し掛けた。

「……藤田さん、これで全て解決しました。今までの霊障など、様々な怪現象はもう起こる事は無いでしょう」
「そう、ですか……。有り難うございます……」

 少し戸惑いを含んだ返答。その表情には、自分の先祖が犯してしまった事への罪悪感が表れていた。

「……出来るだけ毎日、井戸の前に新鮮なお水と綺麗なお花を供えてあげて下さい。それが、三智流さんへの供養になります」
「―――!! はい、やります! 絶対に!!」

 彼女の気持ちを汲み取った五堂がそう伝えると、強い決心を持った目を向け、はっきりと力強く返事をした。


――――――


 それから数分程、依頼完了後の諸々な説明をして、二人は家の斜め前に停めてある派手な車に乗り込んだ。藤田さんが家の中に入るのを確認して、カヤがエンジンをかけようとキーに手を伸ばすが……。

「さて……。カヤ、さっきの……」
「えっ? ああ〜、ミラクルなバリアーの事ね!」
「だから、バリアーじゃなくて結界………まあいいや」

 何を言っても無駄だと思い、五堂は軽く溜め息をついてから続ける。

「そう、それ。一体どうやって作り出したの?」

 今回一番のミステリーを解き明かしたくて五堂は問い掛けるが、カヤは自分でも納得行かないといった表情で、ぽつぽつと話し始める。

「うーん、何かね……紗那さんを守らなきゃ!! と思ったら勝手に体が動いててね、紗那さんの前に居たの。そしたら今度はあたしも危ないじゃん? それで、ヤバいー!! と思って手を動かしてたら…………バリアー張ってたみたい♪」
「みたい♪ってアンタ……」

 のん気に音符マークを飛ばしての返答に五堂は一旦は呆れるが、すぐにはっとして問い掛ける。

「じ、じゃあ何!? やばいと思って動かしていた手が、偶然にも結界を張る印を結んでいたって事!?」
「インドのおむすび??」
「印を結ぶ。……はぁ……」

 小首を傾げながらマジボケをかますカヤに、五堂の口から大きな溜め息が漏れた。

「……まぁ、色々と偶然が重なったとはいえ…………カヤ。あなたには結界を張れる能力があるよ。しかも強力な……」

 その言葉に、カヤは大きな瞳をきらきらと輝かせる。

「うっそぉー!? マジで!? マジで!? 凄いじゃないあたし!! 回復も防御も出来るなんて、ただの僧侶じゃなくて、物凄いレベルの高い高僧なのね!!」
「待ちなさい」

 自分に秘められていたもう一つの能力に喜びを隠せないカヤは、興奮してまたもやRPGの役職に当て嵌めて騒ぎ立てるが。五堂の放ったたった一言で、ぴたりと静まった。それは、その声があまりにも落ち着いていて、逆に怖かったから……。

「今回は色々な偶然が重なったお陰で無事に助かったけど……。もし一つでもその偶然が欠けていたら、カヤも藤田さんの命も無かったんだよ」
「う゛っ……そ、それは……」
「だから、これからは何事も慎重に行動するように。いい?」

 まるで厳しい姉か母親のように諭す五堂に、カヤは返す言葉が見付からず。

「は……は〜〜い…………」

 しょんぼりと下を向きながら、長い返事をする。その様子を見て五堂は、ふと過去にもこんな表情と返事をする誰かを思い出し…………少し、寂しくなった。

「でもでもっ、あたしには才能があるのよね!?」

 と。五堂の心境に気付く由もない程、驚きの早さで立ち直ったカヤが、身を乗り出して迫って来る。

「ま、まあ、それは認めるけど……」

 ためらいがちにも改まって肯定された事に、彼女は満足したのか。

「だったらいいわ♪」

 ギュオォォン!!

 にっこりと極上のスマイルを浮かべた途端。ぐるんとキーを回してエンジンをかけ、車は猛スピードで発進した。

「うわっ!! ちょっとカヤ、慎重に行動しろって言ったばかりでしょ!?」

 五堂は衝撃で身を揺らせつつも、慌てて両手でシートベルトを握る。

「はいはい、分かりましたよ五堂さん♪ さ、帰宅しますよ〜♪」
「しますよ〜って、もう出発してるでしょ!? しかも、夜道の一般道で130km/hも出さないのーっ!!」
「あいあいさ〜♪」

 さっきのしょんぼりしていた彼女はどこへやら。全く懲りていない様子で、どんどん車を飛ばし続けている。

  ああ、才能あるとか言わなきゃ良かった………。

 心底後悔している五堂は、往路よりも速いスピードに耐える為にシートベルトを握りつつ、本日一番大きな溜め息をついたのであった。


 因みに……。
 華夜は「自宅まで送る!」と言ってきかなかったが、利亜はそれを丁重に断り続け。タクシーを呼ぶ為に一旦華夜邸に戻った。
 すると、運転手の北川さん。帰らずに待っていてくれました。……華夜の母親と、ゆっくりお茶を飲みながら……。




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