[携帯モード] [URL送信]

short novel
マトワの憂鬱は露と消えゆ
まったく、いったい何を心配していたの?








サファイアの、彼女の最近の趣味は、木登りや泥遊びではなく、僕のような都会人が好む映画鑑賞だった。きっかけをつくったのは勿論、僕。最初は、映画を見ることをかなり渋ったのだけれど(そんなもん見るより、自然の方がよか、てれびなんて偽物の色ったい!が彼女の持論だったらしい)、僕が「僕の好きな映画のひとつでね、とてもいい映画なんだよ。まるで絵画の中を歩いているような、幻想的な映像がBeautifulで、ストーリーも素晴らしいんだ。キミにも見てほしい。だって好きな子には、自分の好きなものを知ってほしいしね」と殺し文句付きでいったら、見てくれるようになったのだ。

今では自分からお店でビデオを借りている時もあるらしく、その中で気に入った話を勧めてきたり、まるで彼女が僕に染まっていくようで、ひどく嬉しい。

ただ、不可解なことがあって、サファイアがある歌をよく歌っているのだ。それは別に構わない。しかし、何故か彼女はその歌の名前を教えようとはしないのだ。映画をみるようになってから、口ずさむようになったので、たぶん、映画の主題歌か何かだと思うんだけど...頑なに首を縦に振ろうとしないのだ。



*****



あなたは足を踏み入れた土地は
みな自分のものだと思うのでしょう

土はただ生命のないものだと
でも私は知っている すべての石や樹や生き物たちが
いのちを 魂を 名前を持っていることを

あなたはこの世で人と呼べるのは
あなたと同じような外見を持ち
同じように考えるひとだけだと思うのでしょう
でも見知らぬ人の足跡をたどれば
いままであなたが知らなかったことを知るでしょう

青い月に吼えるオオカミの声を聞いたことがある?
山猫になぜ牙をむくのか聞いてみたことがある?

山々の声で歌うことができる?
風の色で描くことができる?
風の色で描くことができる?

森のなかのけものみちを走りましょう
太陽で熟した大地のベリーを食べましょう
あなたのまわりのすべての豊穣の中をころげまわるの
そしていまは こんなものにどんな価値があるのか考えるのは止めにして

嵐や川はわたしの兄弟
アオサギやカワウソはわたしの友達
そしてわたしたちは皆つながっているの
まるいの環、永遠の輪のなかで

青い月に吼えるオオカミの声を聞いたことがある?
ワシにいままで見てきた土地の話を聞いたことがある?

山々の声で歌うことができる?
風の色で描くことができる?
風の色で描くことができる?

すずかけの樹はどれほど高く伸びるのかしら
切ってしまっては わからないわ

青い月に吼えるオオカミの声はあなたには聞こえない
白い肌であっても 赤い肌であっても
山々の声で歌わなくてはならないの
風の色で描かなくてはならないの

あなたは世界を我が物にすることもできるわ でも
あなたが手にすることができるのはただの土

風の色で描けるようになるまでは



*****



「また、歌ってる...」

今日はどうやら映画鑑賞ではなく、木登りをしていたサファイア。景色を眺めながら、その歌を口ずさんでいる。

たまらず、ボクは尋ねた。

「サファイア、いい加減その歌の名前、教えてよ。そんなにBeautifulな歌詞とメロディーなんだからさ」

ボクに気がついたサファイアがこちらを向く。なんだか、本当に嫌そうな顔。あ、なんか傷付くなぁ。

「絶対にいやったい...」

「どうしてさ?きっとキミがみた映画の歌か何かなんだろう?どうしてそんなに頑なに拒むんだい?ボクが知ったら、何か問題でもあるの?」

すると、彼女は何故か泣きそうな顔をして、叫んだ。

「嫌なものは、嫌ったい!特にルビーには絶対に教えん!調べたりしたら...絶交ったい!」

そういって、彼女は木から飛び下り、森の方へ足速に走り去っていってしまった。唖然としたボク。

「そこまで言うなら、ボクにも考えがあるよ、サファイア」

ボクはそう独り言を言って、彼女が去っていった方向を睨みつけた。



*****



ボクは今、自分の部屋のパソコンで調べものの真っ最中だ。サファイアの歌っている歌のね。歌詞はだいたいわかっていたから、検索エンジンにかければ、その歌の題名ならすぐに判明するだろうと思ったから。

「ええと...確か、よく聞こえていた単語は-COLOR-色と-WIND-風だったから、とりあえずこれでやってみるか。COLOR OF THE WIND-風の色-っと」

エンターキーをタンッと押す。すると、画面にはずらっと結果が踊っていた。

「って!これ歌の名前じゃないか。へーアニメ映画の主題歌なのか...映画の内容も知りたいな。どれどれ」

リンク先をカチっとクリックする。ボクはそこに出てきた映画のあらすじをまじまじと見つめた。


「なになに...」

ボクはこのあらすじを一通り読んで、その内容にひどく驚いた。似ていたのだ。ボクとサファイアの関係に。先住民族の女性、ポカホンタスは大自然を愛する人で、イギリスから開拓団の一行としてやってきた男性、ジョン・スミスは都会からやってきた人物...二人は出会い、恋に落ちるが、先住民族と開拓団の対立は日増しに激しくなっていき、そして...

「...なるほど。だから教えようとしなかったのか...すごく可愛いらしいし、キミらしいけど、まったく、何を勘違いしているんだか...」

ボクは行動を起こした。



*****



「ねえ、サファイア。一緒に映画見ようよ。秘密基地で」

「なして秘密基地?ルビーの家の方が、ぷろじぇくたーがあって、映画館みたいに見れると」

あたしはルビーが、どうして映画を秘密基地で見ようと言い出したのかわからなくて、そう尋ねた。ルビーの家には、ぷろじぇくたーという機械があって、テレビ画面なんかよりずっと大きく映画を見ることができるから。なんでも、家族揃って映画鑑賞が趣味なのと、ルビーが自分で撮ったポケモン達のホームビデオを堪能したいがために買ったらしい。本当、都会人ったいね。

「いいじゃないか。あそこなら、誰にも邪魔されずに二人っきりで見れるだろ?」

な、な、な!あたしは自分の顔が熱をおびて、赤くなっていくのがわかった。どうしてルビーはそうサラッと殺し文句をあたしにはけるのだろう...嬉しいけど、恥ずかしいったい...

「じゃ、決まりね。実はさ、もう準備してあるんだよ。ボクと手を繋いでくれる?RURUにテレポートで運んでもらうから」

そういわれたので、あたしは、きっと林檎みたいになっている顔を下に向けながら手を差し出す。ルビーはニコニコしながら、あたしの手をとり、そしてテレポートした。

秘密基地に入ると、てれびの前に何故か一人用のソファーが置いてあって、どこに座るったい!これじゃ...と言おうとしたら、ルビーが自分の膝を指さし、キミの席はここだよといった。顔がまたまた熱くなっていく。このままじゃ沸騰しちゃうったい!

でも、内心はすごく嬉しいので、あたしは素直にルビーの膝の上に座る。すると、彼はあたしの腰に腕を回し、まるで逃がさないかのように、ギュッと抱き込んだ。

「...ルビーなして、こんなに力が強いと...?」

「キミがきちんと座っていられようにね。それに、好きな子にはずっと触れていたいし」

ルビーはあたしをいったいどうしたいのか。こんな見る前から殺し文句をはかれすぎて、私はもう沸騰して、空中に浮かんでいる水蒸気になったような、そんな気持ちになっていた。

りもこんを使ってルビーがてれびの電源を入れ、映画がはじまる。瞬間、あたしはとても驚いた。だって、この映画は...

「ルビー!嫌!あたし見とうなか、この映画!」

あたしはそう言って、ルビーから逃れようとした。でも、細身の癖に、筋肉のついたしなやかなルビーの腕は、あたしを絶対に逃がさないとガッチリと捕らえたままだった。その表情はポーカーフェース。いや違う、なんだか怒っているように思えた。

「やっとわかったんだ。この映画だってね。サファイア、嫌でもボクと一緒にみてもらうよ。だから、静かに、暴れないでね」

その有無をいわさないといった笑顔に気圧されて、あたしは、黙って前を向き、問題の映画をルビーと二人で見始めた...あたしは、とても悲しい気持ちで画面を見つめていた。なぜなら...あたしはこの映画の結末をよく知っていたからだ。



「あ...」

映画は終わりをむかえようとしていた。ジョン・スミスは愛する女性、ポカホンタスをかばい、撃たれたのだ。先住民族と開拓団の対立はこのあとのポカホンタスの言葉で大事には至らなかったが、大怪我をしたジョン・スミスはイギリスに戻らないと、命が危ないかと言われ、船に乗り込む。

それを切なげな表情で見送るポカホンタス。つまり、ジョン・スミスは帰っていってしまうのだ。自分の故郷である、イギリスに、都会に。

あたしは、涙がまるで洪水のように流れ出し、顔をぐちゃぐちゃにしていくのがわかった。そして、後ろを向いてルビーにどうしてこの映画を一緒に見ようと言い出したのか、叫んだ。

「ルビー!...なして?なして!あたしは...調べないでっていったと。どうして!」

すると、そこにはいつもと同じ涼しい顔をした、ルビー。しかも、ちょっと呆れ顔。

「なして「あのね、サファイア。キミはいったい何を勘違いしてたんだい?これは映画の話なんだよ?」

ため息までついて、そう言った。あたしは自分の今の気持ちを吐き出す。

「でも!ジョン・スミスは帰ってしまったと...ポカホンタスを置いて...あたし...」

すると、ルビーは、彼自身の紅の瞳であたしの藍色の瞳を捕らえ、逃がさないようにする。見つめ合う、あたしたち。ルビーは肩を竦めると、あたしの体を、両腕で持ち上げ、器用に向きを変えて、彼の膝の上で、向き合うような形にすると、ギュッと強く抱きしめてきた。そして、すこし怒ったような、呆れたような、でもとても真剣な表情をして、こう言った。

「...確かに、似てるよ。この映画の二人。ポカホンタスは大自然の中で育った女性で、ジョン・スミスはイギリスで育った男性。つまり、ボクらみたいだってことをね。そして、ボクが昔、ジョウトに帰るっていったことも。でもさ、キミは1番大切なことをわかってない。僕は、今ここに、こんなにキミの傍にいて、キミを抱きしめているんだよ、ボクらだけの秘密基地の中で。それは、これからもずっとそう。ねえ、サファイア、いったいキミは何をそんなに心配していたんだい?ボクが彼みたいに、いつか本当にジョウトに帰ってしまうとでも思ったのかい?そんなこと、ボクができるわけないよ。父さんもママもいて、何よりサファイア、キミがいるこのミシロからいなくなることができるわけないんだ。世界中で1番大好きなキミをひとりになんて、できるわけがないんだよ」

最後の方はなんだか、ルビーも泣きそうな、なんだかそんなかんじを受けたけど、それは、その言葉は今日聞いた中でも1番の殺し文句だった...でもあたしはあんまりにも嬉しくて、その場でぴょんぴょんと跳びはねてしまいそうだったと。頬を伝っていた涙は悲しみから喜びの光を放って、あたしは、ニッコリとルビーの為だけに、笑いかけた。ルビーもそう、あたしの為だけに、微笑んでくれた。あたしは彼の首には腕を絡めて、彼にもっと、もっと密着して、ルビーも同じで。ルビーと至近距離で目が合う。お互いの画面が、心の中が、二人だけになる。

「ま、ボクはサファイアのそういう乙女チックなところも、すごく好きだけどね。ねえ、サファイア、今ボクはキミと、とてもあることをしたいんだけど、いいかい?あ、答えは聞いてないけど」

そういって彼はあたしにキスの雨を降らしてきた。いつもだったらあたしは、これから行われるその愛の語らいが、それはそれはすごく恥ずかしいんだけど、今日は全然違くて、自ら進んで、その雨を受けにいったったい。











あとがき

実はルビーさんが冒頭でいっている映画も実在のものです。ただ今物語パロで使おうとしております。あと、このCOLOR OF THE WINDって何と無くサファイアソングだなって。英詞を最初載せようかとおもったんですが、土岐帆さんって方の訳が素晴らしかったので、こっちを引用いたしました。サファってこういうのと自分を絶対に重ねちゃうと思う。

ちなみに最後のルビーの台詞は某イマジンさんの口癖。全然違和感ない笑ってかまたイチャイチャだよ。こいつら

[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!