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short novel
☆I'm (not) A Stranger
これは物語パロになります。"Let's Search For Tomorrow"と同じで、"天使のくれた時間"と話は同じですが、今回はルビーと、その子供達の話になります。また、ルビーはまだ自分に、いったい何が足りないのかといったことを知りません。エメラルドに"煌めき"を見せてやる、といわれたすぐ後ぐらいからのお話です。あと、話の都合上、コガネシティとミシロの距離が車で2、3時間くらいのところにあります。

たぶん、これを読んでから、"Let's Search〜"の最後の方を読むと、ルビーさんの言葉に感動できる...かも。












さようならより、たくさんのありがとうを



まさに、今のボクを表す言葉は、"I'm a stranger"。ここはいったい、どこなんだ!だった。コガネシティの自分のフカフカなベッドの上で眠りについたはずなのに、なぜか、今は全然しらない、見たこともないベッドの上に、しかも、女性と一緒に眠っていたのだから。言葉を話す仕方を忘れたみたいに、パクパクと開いた口が塞がらない。

「な、な、な、な」

すると、バタンとドアが開いて、嬉しそうな顔をした、5才くらいの女の子が赤ん坊を抱き抱えて入ってくる。瞳の色は、ボクと同じく、紅。

「パパ〜クリスマスおめでとう!ねえ、プレゼント、開けてもいい?」

そういって、ベッドの上に跳び乗ってくる。ボクは思わず跳び起き、それと距離をとる。隣に寝ていた女性が眠気眼を擦りながら、起き、赤ん坊を抱き抱えながら、言った。その瞳は、藍。その深い色にボクは見覚えがあった。

「...ガーネット、ベッドに跳び乗っちゃ駄目と何度もいったと、ママは。やめなさいって。パパも疲れとるとき、あるったい。急に起こしちゃ可哀相ったい」

赤ん坊をあやしながら、彼女はこちらを見る。やはり、その顔は知った顔...13年前に別れた恋人...サファイアだったのだ。しかし、なんで自分と一緒に寝ているのか、理解不能。彼女がボクを見る。

「あ、ルビー!メリークリスマス!」

彼女は、本当にサファイアだった。藍色の瞳も、その笑顔も。ボクはもう、なんだか訳が解らなくて、意味も解らなくて。でも、ここを早く離れないと、頭がおかしくなりそうで、足早にドアから家の外に跳びだした。恐ろしく驚く羽目になったが。

「ななな、なんだこの汚い、狭い、小さな家は!ボクのフェラーリは?いったい何処に!」

頭を抱えながら地面に膝をつくボク。すると、後ろから人の声がして、ボクはそちらを見る。

「メリークリスマス!ルビー。いいクリスマスの朝じゃないか」

「師匠!?」

そう、そこにいたのは13年前に自分が師事していた、ミクリその人だったのだ。隣には夫婦のように、寄り添ってにこにことしている女性。確か、サファイアの先生だった人、ナギ。

「いったい何を驚いているんだ?ルビー」

「師匠!ここは何処なんです!?」

「へ、何処って...ミシロに決まってるじゃないか」

ミシロだって!?でも、場所がわかったんなら、コガネシティに帰ることは可能だ!そう思ったボクは、師匠に駆け寄り、まくし立てながら、叫んだ。

「師匠の、車を、貸して、下さい!」

「なぜだ?自分のがあるだろう?」

そういって、ガレージの方を指す。そこにはおんぼろのキャデラックがあった。断じて言うが、あんなのがボクのものであるはずがない。

「違います!あれはボクのじゃない!」

「ますます意味がわからないな、いったいどうしたんだ?ルビー」

「いいじゃないか、ミクリ。お前のを貸してやれば」

ナギが口を開く。師匠はまあ、それもそうか、といった顔をして、ボクに鍵を渡す。それを引ったくり、師匠のエアカーに飛び乗って、ボクはそこを後にした。



*****



コガネシティについたボクはそこで、再度あの変な髪型の少年、エメラルドに会い、答えを見つけるまでは、もといた自分の世界には帰れないと教えられた。

「なんで、お前なんかにこんな場所につれて来られなくちゃならないんだ!?とっととボクを元の世界に戻せ!大切な取引をひかえているんだ!」

「それは、できない相談だ」

ニヤニヤと、エメラルドはそう言った。ボクは頭に血が上っていくのを感じ、叫んだ。

「どうしてこんなことをするんだ!金か、金が欲しいのか?いくらだ、いくらほしい?戻してくれればいくらだってやる!」

すると、エメラルドはまたニヤついた笑顔を向ける。

「金じゃ解決できない。ま、答えは自分で見つけるんだな」

「質問もわからないのにいったいどうやって!」

「んじゃあ、ヒント。お前オレとはじめてあった時に、オレに"ボクは全部持ってる"っていったろ?それがヒントだ。んじゃ!頑張れよ〜。ま、お前の場合、答えを見つけるまで相当時間かかりそうだけどな。じゃ!」

そういって、彼はボクのフェラーリに乗って走り去っていった。



*****



家に帰ると、そこにはカンカンになった、サファイア。でも、ボクには言い争う気力は全くなく、どうしてそんなに怒っているのか、どうでもよかった。とりあえず一言謝ってから、ベッドに入る。サファイアが怒ったような、泣きそうな顔をして、ボクを見据えていった。

「あたしたちがどれだけあんたのことを心配したか、わかる?クリスマスの朝に突然いなくなったんったい!しない方がおかしいと...あたし、知り合いに全員電話して、警察にも、病院にも連絡して...本当に、本当に心配したと...」

「...ごめん、ちょっと余裕なかったんだ。本当、ごめん」

「それに、ルビー。あんたガーネットがプレゼントを開けるあの瞬間の顔を見逃すなんて...あの笑顔を...」

うなだれるサファイアを見て、ボクは本当に申し訳ない気持ちになっていた。恋人だった人、好きだった人を悲しませているのだから。

「ごめん、サファイア。もう二度こんなことをしないから、本当にごめん」

「...もう、よか。あんたが無事だった。それだけで。あたしは大満足、万々歳ったい。だから、もう寝るったい!」

彼女はボクの目をみて、そう言った。怒りはまだちらついてはいたが、彼女はどうやらボクを許してくれたようだった。



*****



朝、ボクはけたたましい赤ん坊の泣き声で目を覚ました。サファイアにそれを伝えると、「今日の当番はあんたでしょ?」と言われ、嫌々ながらも子供部屋に入る。そこには、ベビーベッドの上でわんわんと声を上げる生き物と、その近くのベッドに座って、ボクを怪訝な表情で見つめる、生き物。ボクは今だに信じられなかった。この生き物がボクとサファイアの子供だってことが。

藍色の瞳の赤ん坊はどうやら、おむつのせいで泣いているようだった。だが、そんなものなんて替えたことなど、全くない。

「あなた、本物のパパじゃないでしょ」

どうやってこれを外せばいいのか、悪戦苦闘していたその時、後ろからそう声をかけられ、ボクは振り返る。

「パパなら、簡単に替えられるもん」

ああ、どうやら、鋭敏な子供の感性は、ボクがここの世界の住人でないこと、ボクが"Stranger"であることを、いち早く察知したようだった。

「うん、ボクは君のパパそっくりな男だけど、パパじゃない。これは仮の姿なんだ」

「本物のパパはどこ?」

泣きそうな、顔。ボクはハッとする。とりあえず安心させるために、こう口にした。

「わからない、でも大丈夫。君を愛してるから、きっとすぐに戻ってくるよ」

すると、彼女は恐る恐る一歩を踏み出し、ボクの近くの椅子の上に乗り、ボクの顔にその小さな手で触れる。鼻をつまんだり、頬っぺたをつねったり。不可解な行動に、ボクは頭上にクエッションマーク。

「...顔を作るの上手ね」

「誰が?」

「エイリアンでしょ?宇宙船に乗ってる。パパにソックリ」

なるほど、そうきたか。彼女はボクを宇宙人だと思ったらしい。なんだか、とてもおかしいが、確かにその通りだと思った。

「ありがとう。ボクの方がハンサムだろ?」

すると、彼女は顔を曇らせ、今にも大粒の雨を降らせそうなそんな顔になる。

「た、頼むから泣かないでくれ。どうしたらいいのかわからなくなる」

すると、彼女はボクをその紅色の瞳で、見つめて。

「...子供は好き?」

「...まあ、時と場合による」

「チョコレートミルクの作り方しってる?」

「たぶん、なんとか作れると思う」

「私や妹を誘拐したりしないで。頭に装置を埋め込むのも、嫌」

「うん、わかった」

すると、彼女は曇り空がだんだんと明るくなって、晴れ渡った空のような笑顔で、ボクにこういった。

「地球にようこそ」



*****



ボクは彼女、ガーネットからいろいろなことを教えてもらった。少し違うとはいえ、彼女はこの"煌めき"と称された不思議な世界の中で唯一ボクが"Stranger"であることを見抜いた人物だ。わからないことは、なんでも彼女に尋ねた。本当に滑稽な話だ。でも、紅色の瞳は、本当にボクにそっくりで、彼女が自分の子供であることを認めざるを得なかった。



*****



ボクは今かなりのピンチに陥っていた。今日はなんとサファイアと自分の結婚記念日だったのだ。しかし、それをボクが知るはずもない。彼女はカンカンになり、悲しそうな顔をして、かなり機嫌を損なわせてしまったのだ。

今はなんとか作れるようになっていた、チョコレートミルクをガーネットに渡す。彼女からの感想は、まあまあ。うん、なんかませてる。

「パパはね、記念日にいつも特別なことをしていたの」

「例えば?」

「お星様にママの名前をつけてあげたりとか」

なんだそれ。ボク本当にそんな乙女チックなことを彼女にしたのか。

「...それ、かなりくさくない?」

「ママ、すっごく喜んでた」

「...イヤリングとか、どうかな?」

「...それでもいいけど、忘れたことが致命的だから、ママの機嫌が直るかはわからない」

「そうだよね、結婚記念日をわすれるなんて...本当馬鹿だった。もしボクがサファイアだったら...そんなに高い物は望まないはず、贅沢なんてできないし。亭主の能力は絶望的で、出世は無理そうだし、金持ちになんて、なれる訳がない。一生郊外暮らしだ」

そう、ここミシロは住宅街、度がつくほどの田舎。ボクはこれにピンときて、彼女に尋ねた。

「コガネシティにいったことは?」

すると、彼女はにっこり笑って、

「それなら、機嫌なおるかも」

ああ、本当、君がいないとボクはここでやっていけそうにない。

仲直りは成功した。彼女をコガネシティへ連れていき、レストランで食事のあと、ホテルで一晩を過ごしたのだ。ボクは気づきはじめていた。今、ここでサファイアといるこの時間、子供達と過ごす時間が何よりも素晴らしく、かけがえのないものになっていることに。



*****



「NANA!ええと...ううんと...噛み付くだっけ?うんと...吠えるの方がいいのかなぁ...」

ガーネットがコンテストの演技の練習をしている。彼女のポケモンであり、ボクらの家族の一員でもある、グラエナのNANAは困惑した瞳を彼女に向けていた。ボクはたまらず、言った。

「駄目じゃないか。そうやって演技するポケモンに迷いを持って、指示をだしたら。NANAが困っちゃうだろ?」

そういって、ボクはガーネットの目線に立ち、NANAに向かってこう言った。

「NANA!跳んで睨みつける!次に、回り込んで突進だ!」

綺麗にそれが、練習していた張りぼてに決まる。まあ、実際の演技会場では、違うだろう。しかし、NANAは誇らしげにボクたちの方へ歩いてきた。ガーネットの眩しい笑顔が、ボクに向けられる。

「すごい!すごい!」

「当然だよ。パパはコンテストが得意なんだから」

そう彼女に笑いかけた。すると、ガーネットは今までに見たことのないような、安心仕切った笑顔で、こう言った。

「おかえり、パパ」

ボクはもう、"Stranger"ではなくなっていた。本当の、本物のパパになっていたのだ。彼女の中で。心の中に沸き起こる、温かな、満ち足りたような、素晴らしい衝動。ガーネットを抱きしめる。そして、囁いた。

「大好きだよ、ガーネット」

ボクは答えに気づいたのだ。今までの自分に、いったい何がなかったのかを。



*****



重い足どりでボクは家に帰ってきた。エメラルドにこの愛に満ち溢れた、素晴らしく、幸福な時間が終わると、"煌めき"は永久に続くものではないと諭されて。そう、ボクは気づいていたのだ。今まで成功を掴む事しか頭の中になかった自分に、愛が全くなかったことに。

そして、別れが近いということを。

子供達の部屋に入る。ボクの娘、まだ赤ん坊のアクアは眠っていた。サファイアの瞳そっくりの藍色の瞳は閉じられている。最初見たときは、なんてやかましい、煩い生き物なのだろうと思っていたのに。

なぜ、今はこんなにも愛しいのだろう。

彼女の髪を優しくなでる。途端、涙がこぼれていきそうになる。もう、この温もりを感じることができなくなってしまうのかとふと思う。

今度はガーネットのベッドに行き、彼女の頬にキスを優しくおとす。どうやら、そのくすぐったさにほんの少し目を開けてしまったようだ。彼女の紅色の瞳と、ボクの瞳が合う。

「...もう、朝なの?」

とても、眠そうなガーネットの声。ボクが愛している、娘の声。

「いや、まだだよ。ゆっくりおやすみ」

ガーネットにそう声をかける。瞬間、愛しさが体の隅々を駆け巡る。ああ、この気持ちをなんと言い表せばいいのだろう。

そして、こう告げた。

「ガーネット、元気でね。ボクは宇宙船に戻る」

そう、ボクは"Stranger"なのだから、と。でも、ボクはさようならより、たくさんたくさん、君達に伝えたかった。

愛に気づかせてくれて、ありがとうと。
















あとがき

これを読んでからLet's〜を読んだ方がいいかもしんない。

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あきゅろす。
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