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short novel
星降る夜に
一生忘れることのできない時間を、君に。



「すまんち、アスナ。今日せっかく一緒にえんとつ山で流星群みようって誘ってくれてたのに」

あたしは電話をかけて、友達のアスナにひたすら謝っていた。今夜、二人で一緒に山に登って、空に1番近い所で星を見ようって約束していたのだ。しかし、それは父ちゃんの「すまん、サファイア。どうしても今日中に終わらせなければならない研究の資料が、まだできてないんだ...手伝ってほしい。頼む」と両手を前に合せてお願いされたせいで、破らなければならなくなってしまったのだ。それに、そんな必死な表情で頼み込んでくる父ちゃんに嫌と言うわけにもいかず(だって父ちゃんはあたしを養ってくれているのだから)頷いてしまったあたし。たぶん今からやればなんとか終わらせられるだろう、と考えたところ、甘かった。なんと、調べなければならないポケモンは、バルビートとイルミーゼ。つまり主に夜活動するポケモン達で...約束の時間にフエンタウンへ絶対につけそうになくなってしまったのだ。

「ほんとうにすまんち、アスナ」

『いいよ、それじゃあ仕方ないよ。そんなに必死になって頼まれたなら。お父さんの方を優先してあげて』

「後で何か埋め合わせするったい」

『うん、わかった。楽しみにしてるね。頑張って、サファイア』

「ほんとうにすまんち。じゃあ、また連絡するったい」

そういって電話を切った。はぁああーとため息がでる。すると、今日はあたしの家にきていたルビーが、キッチンから顔を出す。普段はあたしが、ルビーの家に行くことの方が多いのだけれど(ルビーの家は、いつも綺麗に片付けられていて、すごく居心地がいいし、何よりママさんの作るおやつは、絶品だった)今回は父ちゃんが、研究仲間に美味しいアップルパイを貰い、それを二人で食べるために、こっちにきていたのだ。あたしが切り分けるといったら「君に切られたらアップルパイが可哀相だよ」と失礼な発言つきで。

鳩尾に肘鉄を一発お見舞いし、ダイニングルームでプンスカとしていたところ、父ちゃんが「大変だぁ」とバタバタと帰ってきて、そうお願いをされて...しかも父ちゃんは他にやることがあるのかまた嵐のように去っていって...

そして、今に至る。

「あれ?君、今日アスナさんと流星群みるんじゃなかったの?」

「...ルビー...さっきのあたしと父ちゃんの会話聞こえんかったの?夜にフィールドワークしなきゃならなくなったからいけなくなったって、電話してたところったい...」

「ふーん...それは、残念だったね。でもさ、確か夜の10時くらいでしょ?」

「...いくらあたしでも無理ったい。それに約束の時間は10時じゃなかと。8時ったい...他にも温泉街をアスナが案内してくれることになっていたと...晩くなるからアスナの家に泊まることにもなってたと」

アスナはフエンタウンを隅々まで知ってるから、きっと美味しいお店もたくさん知ってるんだろう。そして、女の子だけでするお泊り会。いろいろ話したいことがあったのに...はぁ、またあたしはため息をついてしまった。するとルビーは、違うよと首を振る。

「そうじゃなくて、流星群がはじまるのは夜の10時くらいからだから、君の家の屋根に登れば、見ることは可能ってこと。あんなに楽しみにしてたじゃないか。それに、あんなにBeautifulなものを見逃すなんて勿体ないよ。ニュースでも今回のはかなり規模が大きいからまるで、空からまるで光の雨が降ってくるみたいにみえるとか、いってたじゃないか」

「まあ、そうったい...屋根ば上れば見れるったい...今夜はそうする...」

ルビーの目が細められていく。にっこりと笑顔になる。だか、その瞳の奥に、あたしを捕らえた、そんな感じをうけたのは気のせいだろうか?まあ、美しいものが大好きな彼のことだから、あたしが流星群は疲れていても見るといったことが、ひどく嬉しかったのかもしれない。きっと「君の野蛮度がすこし下がる!」...みたいな、失礼なことを考えながら。本当にそう思っていそうでなんか、ムカつく。そうだ、いい考えがうかんだ!と思い口を開こうとした瞬間だった。

「じゃ、ボクは急用ができたので!」

ルビーはパイをのせたお皿をあたしの手に素早く乗せる。そして、先程の父ちゃんと同じように、玄関を開けて走り去っていった。ルビーに「手伝って!」と言おうとして開けた口はあいたまま塞がらなかった。

「アイツ...もしかして...察知して、逃げたん?」

汚れるのが大嫌いな彼である。きっとそうに違いない。なんだか、本当にムカついてきた...あたしは彼が去っていった方向を睨み続けた。



*****



夜10時。あたしはやっと父ちゃんの用事を終わらせ、家に帰ってきたところだった。父ちゃんに資料をわたす。「すまん、サファイア。本当にありがとう、助かったよ」とお礼をいわれたが、あまり嬉しくなかった。「大丈夫ったい、おやすみ」そう声をかけて、あたしは自分の部屋に向かう。ふと窓の外をみると、シュッと流れ星。あ!自分の部屋のベランダから屋根の上によじ登り、座って空を見上げて他の流れ星を探す。

しかし、テレビで言っていたような、まるで光の雨のように流れると言っていた流星群は現れない。あの一回こっきり。あたしは、なんだか、体中の血液が怒りで沸騰しそうになっているのを感じた。握りしめた手がワナワナと震える。そして搾り出すように、今の自分の気持ちを吐き出す。

「...何か、あたし今日何か悪いことしたん?アスナと回るはずだったフエンタウンの温泉街はお預けで、かわりにさっきまでフィールドワークして。それでも、ルビーが言ってたBeautifulな流星群を見ようと思って...願い事しようと思って屋根ば登ったのに、流れ星がない?あたしはこの怒りをどこにぶつければよいと?もう、なんだか、泣きたいったい!!!」

最後の方は叫んでいた。その時だった。

「美しくないなぁ、せっかくの素晴らしい夜なのに」

「!」

ふと声の方を見ると、なんとルビーが屋根の上に立っている。あのいつもの笑みをこちらに向けて。まだ怒りは収まってはいないけれどとりあえず、彼に尋ねた。

「...いったいどこから来たんったい...」

「いやぁ、ふと窓からの外をみたら、君が屋根の上に座っていたからRURUにお願いしてテレポートしてきたんだよ」

そういってボールを手に取るルビー。暗くて見えないが、たぶん中にいるのはRURUなんだろう。ニコニコと彼はそれを覗き込んでいる。そして、あたしの方をみて、馬鹿にしたような口ぶりで声を発する。

「そしたら君がまるで野獣みたいに唸り声をあげているじゃないか!美しくないね。こんなにいい夜が台なしになってしまうかもしれないじゃないか」

ぷっつん。あたしの中で、何かが切れる音がした。

「...あんたになにがわかるったい!あたしは今日という日を本当に本当に楽しみにしてたんったい!流れ星にお願いしたいことがあったんたい!なのに、なのに、なのに、全部駄目になりそうったい!ルビーにあたしの気持ちの何がわかると!もう、どっかいって!あたしを一人にして!」

最後の方は涙声だった。あたしの顔をみて、目を見開くルビー。あたしは顔を下にむけて、泣き続ける。

「ひっく...どっかいって...」

「ごめん、泣かせるつもり、なかった。ごめん」

「...あたしの顔みないで、あっちにいって...」

一人になりたかった。こんなふうに泣きじゃくる、弱いあたしを誰にも見せたくなかった。とくに、ルビーには。

「...わかった、じゃあボクは、本当に君の前から消えるよ。さようなら、サファイア」

「?」

なんだか、不可解な言葉に下を向いていたあたしは顔をあげ、ルビーの方をみる。すると彼はなんと、屋根の端っこに立ち、空中に足を踏みだそうとしていた。えっ意味がわからなくてあたしは彼に尋ねる。

「な、何しとるん?」

「君の前から消えるんだよ、永遠に」

そういって彼は下に落ちていった。あたしは驚きのあまり、声がでない。何をしたのあの人。えっえっ?落ちた?消える?永遠に?そんな、まさか!その意味を理解し、ルビーが落ちていった方の端に、駆け寄る。彼の名前を叫ぶ。

「ルビー!!!」

あたしはそう、叫んだ。



「ふふっ驚いた?」

そこには、フライゴンに乗った彼がいて、微笑んでいた。そしてゆっくりと浮上し、ちょうどあたしの目の高さくらいのところにくる。

「驚きすぎて、心臓が飛び出るかと思った...」

「大袈裟だなぁ、サファイア。これくらいの高さなら、落ちても死にはしないよ。まあ、怪我はするだろうけど...それにさ、ボクの手持ちにはRURUがいるんだよ?例え本当に足を踏み外し、下に落ちていたとしても、彼女の力があれば絶対に大丈夫だったんだからさ?それくらい考えられなかったの?」

そう、続ける。あたしはなんだかまた心の底で怒りの炎が燃えようとしていたのを感じた。つまり、彼はわざとこんな行動をとったのだ。落ちたふりまでして。あたしは声を張り上げようとした。でもそれは、できなかった。なぜならルビーがすごく真剣な表情をして、あたしを見つめ、捕らえていたから。声が出せなくなる。

「...本当なら、ボクが君を最初に誘うはずだっだ。実は前から計画していたんだよ。君の為に、秘密で。まず、エメラルドにホウエンで1番綺麗に星空が見える所は何処って教えてもらい、次にミツル君からフライゴンを借りる。当日の夜になったら、フライゴンにのって君を迎えに行き、流星が降り注ぐ、光輝く星空を見ながらの空中散歩をプレゼントしたいなって。忘れられないような、一生心に深く刻まれて残るような、そんな時間を。そして、君に、ずっと前から伝えたかった言葉を言おうって。なのにアスナさんと見に行くって約束をしたって聞いて...もっと早く誘っておけばよかったって後悔した」

ルビーの後ろにキラリと流れ星が流れ出す。キラリ、またキラリ。でも、あたしの目にはそれ以上にルビーが流れこんでくる。 その煌めきから、視線を反らすことができない。

「だから、今日アスナさんとの約束がなくなったってわかって、ボクはやった!って思った。駄目になった計画を実行しなければってね。まず、ミツル君の家まで走った。フライゴンを借りにね。でも彼は、検査でホウエンからでてるって聞いて...でも今夜の流星群がはじまる前までには帰ってくるって教えてもらったから、待っている間に今度はエメラルドに電話して、場所の確認をしようとしたんだ。そしたら彼は研究の発表会の手伝いをしているから、ちょっと手が離せないって...本当、なんてタイミングが悪いんだって思った。ただ、彼も夜には手が空くだろうって...まあ、最終的になんとか間に合ったけど、ミシロタウンに帰ってこれたのは10時くらいなんだ」

彼は、フライゴンから下りて、あたしの手を優しく包み込む。視界があたしの心がルビーでいっぱいになる。 彼の紅色の瞳に、あたしの藍色の瞳が重なる。それはまるで、今のあたしたちの心を写しているみたいで。瞬間、彼があたしを強く抱きしめた。そして、耳元で優しく囁く。

「...好きだ、サファイア。誰よりも、何よりも。小さい頃、初めて出会ったときからずっと、ずっと君だけを想って過ごしてきた。それはこれからも、永遠に」

そして、また、あたしの視界が紅色のルビーだけになる。

「オダマキ サファイアさん。ボクと結婚してください」

瞬間光の雨がさっきよりたくさん辺りに降り注ぎ始めた。キラリ、キラリ、キラリ。キラリ、キラリ、キラリ。まるで、今、この場に立っているあたしたち二人を祝福してくれているみたいだった。涙が止まらない。あたしはルビーに抱き着いた。彼はバランスを崩し、本当に地面に落ちそうになる。でもフライゴンがあたしたちを優しく拾い上げ、ふわりとあたしたちは宙に浮く。ぐんぐんと空高く登っていく。あたしは彼の唇に自分の唇を重ねた。といっても一瞬だけど。そして、ルビーにあたしの返事を聞かせる。

「はいったい!ルビー、あたしもルビーのことが大好きったい!」


あたしはこの時間を一生、わすれない。







あとがき

何と無くルビーさんはこういったさい絶対に演出とかに凝るんだろうなと思う。ってかこの二人は付き合ってるのか?よくわからないが、フライゴンネタは気にってたり

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あきゅろす。
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