short novel
ADOLESCENCE
若さ故に
「ルビーあんた、いつまで嘘つき続けるつもりなん?」
「何の話?」
突然投げ付けられたその言葉に、先程まで和やかだったボクら二人きりの秘密基地は、正反対のピリピリとした空気が流れる、まるで法廷のような場所になってしまった。さしずめサファイアは検察で、そして被告人はこのボク。
「そうやってまた嘘ついて、あんたはそれで本当にいいと思ってるん?」
「だから何の話をしているんだい?訳がわからないんだけど」
聞き分けのないボクに我慢がならなかったんだろう、痺れを切らしたサファイアは席を立ち、目と鼻の先まで近づくと、ボクの両腕を強く掴み、壁にたたき付けた。痛い、と言う暇はなかった。怒りに満ちた藍色の瞳は今にもボクに噛み付いてきそうに感じるほど、ギラギラとしているから。
「白を切るのが本当に得意やね、あんたは。大した役者ったい」
「...」
ボクは沈黙する。冷淡な氷の仮面をつけ、キミを尻目にする。
質疑応答はまだ続く。
「覚えてるんやろ?忘れてなんかないんやろ?」
「何が」
ボク自身もキミの怒りに同調してしまったのだろうか?口調が荒くなる。そのせいなのか折角取り付けた仮面が溶けてしまいそうになる。駄目だ、これを失う訳にはいかない、本心を知られる訳にはいかないんだ。
「しらばっくれたって無駄ったい。あんたはボーマンダのこと、あたしとあんたしか知らないはずのことを覚えておった。つまり幻島でのことも、本当は忘れてない。間違いないやろ?」
確かに、それには反論できない。だから真っ直ぐ睨みつけてくる視線から目をそらす。ちらりとサファイアの手を見ると、爪先が白くなるほどに力を込めていた。骨の軋む音が聞こえてきそうなほどに。そこから絶対に逃がさない、問い詰めてやるという堅い意志を感じた。
論破できないなら、ボクのやることはただ一つ。あの時と少し状況は違うけれど、それでもこれは、キミをある危険から守るため。だから、
「サファイア、いい加減にしてくれないかな。その質問に対するボクの答えは変わらない。キミは何一つ理解していないんだ。それを口にすることで何が起こるのかね。そう、キミは勘違いしているんだよ」
サファイアを深く傷付けるのを承知の上でボクは残酷な言葉を言い放つ。仮面の下の本心があまりの痛さに悲鳴を上げる。こんなに、こんなに、痛い。
こんなに近くにいるのに、触れてさえいるのに、キミは遠い。
でも知られる訳にはいかないんだ。ボクの醜い心を。サファイアの心だけでは飽きたらず、その身体も欲しい、ボクを突き刺したいという、欲望を。鎖を付けて閉じ込めて、誰にも合わせないようにして、ボクだけのモノにしたいという悍ましい独占欲を。しかもボクが本気を出せばいとも簡単にそれができてしまうってことを。ボクは男だから。
そう、昔と今のボクはあまりに違いすぎて、天と地ほどの差があるってことをね。それを知られるくらいなら、いっそのこと嫌われて、そして別れた方がいいんだ。ボクがキミを、その眩しいほどの美しさを破壊してしまう前に。
ボクは本来サファイアの傍にいていい人間じゃないんだ。痛いほどによくしってるよ。
「どうして、アンタ、そうやってあたしを、突き放そうとするの」
それがサファイア、キミの為なんだよ。だから、ボクを見捨てて何処か遠くにいくんだ。目の届かないところに。
「でも、傍にいることをやめない。矛盾、しとる。」
その指摘にボクは大いに驚き、沈黙するしかなかった。ボクの腕を掴んでいるサファイアの手から力が抜けていく。ふと見遣ると大きく見開かれた彼女のビー玉のような瞳に水滴がたまろうとしていた。頭の何処かでこうなるってわかってたけど...ああ、痛い、本当に心が痛い。視線をそらすしかない。
結局逃げるしか、うやむやにして、また通常の日常に戻って、忘れたふりをすることしかできないボクはなんて愚かしいのか。
「ごめん...今日はもう帰りなよ、サファイア。じゃ、また明日」
ゆるゆるとスローモーションで解けいくサファイアの手。キミがどんな顔をしているかなんて、見たくも知りたくもないのだけれど、でも次に何をするか、ボクはなんとなくわかっていた。胸倉を捕まれ、バシンと頬に平手打ちを喰らう。仮面が割れた。ジンジンとした痛みは直にボクの心に浸透していって、ボクが咎人であることを強く叩き込んだ。
「ルビー、あたし、あんたがわからないっ!」
大粒の涙を流しながら、サファイアは扉を開けて、去っていく。
もし本当の裁判ならボクにくだされる判決は、間違いなく有罪。冷たい鉄格子の中に閉じ込められるんだろう。一人になれるから、それはある意味楽になれる。
でも傍にサファイアがいないこと、それがとても虚しいことでもあるんだ、間違いなく。
牢獄のように感じる一人だけの秘密基地で、ボクは独り思考する。今どうしてこんなに遣る瀬無い気持ちがふつふつと沸き上がってくるのか、今この場で涙を流しているのはなぜなのか、と。わからない、いや、わかってるんだ。
サファイアをこれ以上傷付けたくなくて、突き放そうとしていることを。でも意固地なボクはそれが本当にできる訳がなくて、心の奥底から、ただひたすらに一緒にいたいと切望しているってことを。
つまるところボクがサファイアを、本気で愛しているという事実を認めるしかなかった。
彼はまだ、青い春の途中
ルビーを考察した時のネタを書き起こしたはいいが、ルビーがただのイタイ人にしかならなかった。
要するに私が思うにルビーはたちが悪いってか罪な奴ってかとんだ青春野郎←
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