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short novel
いつかきっと
今はまだ言えないけれど



崖の下のボクとサファイアの秘密基地。彼女は沢山のきのみを床に並べて選別している。機嫌がいいのかウキウキと鼻唄まじりで。その笑顔をチラチラと彼女に気づかれないように見ながら、ボクはNANAにブラッシングをかけてあげていた。隣にはそれが終わったCOCOが気持ち良さそうにソファーの上で寝ている。

いつものボクたちの時間がゆっくりと過ぎていく。
でも何だか話したいそんな気分になったので、手は止めずに視線だけ彼女の方に向けて声をかけた。

「ずいぶんと上機嫌だね」

瞬間彼女と目が合う。きょとんとした、ちょっと驚いた表情をしたけれど、すぐに笑顔に戻って、誇らしげにサファイアは言った。

「当然たい!このきのみはあたしが丹精こめて作ったんたい!よく熟れてくれたし、だから何だか嬉しい気持ちになるったい」

ニッコリとそう返された。ボクに向けられた満面の笑みにちょっと気恥ずかしくなったので、いつもの自分のペースを崩されたくなくてついついと口から言葉がでる。

「機嫌がいいのはいいことだけど、その手でボクのポケモンに障らないでくれよ?汚れるから」

言い終わったあと、一瞬「ああ、やっちゃった」そう思ったのだけれど、まあいっかとも思っていた。なぜなら彼女がどう返してくるか、またそれをどう返せばいいかというのを、ボクはもう知りつくしている。

「な!あんたのことはよくわかってるったい!そんなことせん!」

「前、泥だらけの手で、ボクのポケモンに触ったのはどこの誰だったっけ?」

「な!あれは不可抗力ったい!わざと触ったんじゃなか!ってか触っとらん!」

「でもボクはもう一回洗うはめになったんだよ?」

実はちょっと前、ボクはNANA達を家のお風呂で洗ったのだ。その時にそれを知らなかった彼女(ポケモンと一緒になって特訓していたらしい)が勢いよくドアを開けて入って来たので、せっかく洗って綺麗になったNANA達に泥がついてしまったのだ。普段サファイアがボクの家のお風呂を使うことはないんだけれど、たまたまその日はオダマキ博士が研究の発表でいなくて、彼女は夜ボクの家族と一緒に夕食をとることになっていたのだ。ちょうどいいわとママが彼女を見つけて連れて来てた矢先にそれは起こったんだ。

「それにさ、ノックもしないで入ってくるし、本当野蛮人だよね。ボクがお風呂に入っていたらどうするつもりだったの?」

「な!」

彼女の顔がカァッと赤く染まる。可愛いな、そう思ってしまう。これだから彼女をいじるのは愉快だ、やめられないとさえ思ってしまう。しかし、どうやら最後の言葉がちょっと言い過ぎだったらしい。

「変態!変態!へんたーい!!!」

「ちょっタンマ!物投げるの反則だって」

顔を真っ赤にしながらぬいぐるみだの椅子だのを投げつけてくるサファイア。ちょっとからかい過ぎちゃったかな、そう思っていた。しかも、ボクがひょいひょいと飛んでくるものを避けるので、彼女の行動はエスカレート。NANAもCOCOもかなり困惑している。頭上を机が飛んでいく。やばい。マジでやり過ぎた。しかも次はタンスにまで手をかけようとしてるじゃないか!ボクはたまらずに言った。

「わかった、ごめん。ボクが悪かったからタンスは投げないでくれ!」

そう涙まじりで彼女にお願いをする。しかし、どうやら気が収まらないらしい。いや、聞こえていないのか。サファイアはタンスを持ち上げていまにも投げつけようとしている。それに驚いて床に尻餅をついてしまった。まずい動けない。

「えっ!ちょっ!まっ!本当に待った!」

「そこを動くんじゃないったい!変態に乙女の鉄槌をくだすったい!」

顔を守るため、両腕をクロスさせた。仕方ない、この際最終手段だ!きっとこれなら今のこの状況を逆転できるはず。ボクは、そう思いをこめて言った。

「今実はすぅぅごくおいしいケーキが家にあるんだ。ほっぺもおちるって超有名なお店のをママが並んで買ってきてくれたんだけど、それあげるからお願いだからタンスを床に置いてくれ、頼む」

ピタッと彼女の動きがとまる。シーンとさっきまで騒がしかった空間が、まるで何事もなかったかのように静かになる。ちらりとサファイアの方をみると彼女は何だか考えこんでいるようだった。沈黙が続く。って!NANA!COCO!なんで君達サファイアの後ろ側にいるんだよ!ボクは泣きそうになった。するとサファイアの口が開く。

「ケーキ?」

「うん、ケーキ」

「すぅぅごくおいしいの?」

「うんすぅぅごくおいしいの。ほっぺもおちるって」

恐る恐るボクはサファイアを見る。どうやらわかってくれたみたいで床にタンスを置いてくれた。しかし、その表情がなんだかおかしい。ニヤッとまるで悪戯小僧みたいな、そんな顔。

「ふーん、わかったったい。それをくれたら許してやる。ただし...」

クルリと後ろにサファイアが向く。NANAとCOCOがそれに気圧されたのか驚いて、テントの中に入って行ってしまった。すると彼女はその入口をしめる。

つまり、NANAとCOCOをテントの中に閉じ込めたのだ。

「な!卑怯だぞ!NANAとCOCOは全く関係ないじゃないか」

「ルビーが逃げないようにするための保険ったい。さあ!とっとととってくるったい!」

テントの中でNANAとCOCOが暴れている。もちろん二匹があそこから出ることは簡単だけど、それはあのテントが破壊されることになる。

「わかった...NANA、COCOおとなしくしてて、大丈夫だから。サファイア、すぐにとってくるからちょっと待ってて」

そういって二匹を落ち着かせ、ボクはRURUを取り出し、テレポートの指示を出して、その場を離れた。



*****



自宅でそのすぅぅごくおいしいケーキを冷蔵庫から取り出し、二枚のお皿を用意して、その上に綺麗に丁寧に切り分ける。フォークをのせて、完成。確か何処かにおいしい紅茶があったっ気が...とカップやらなんやらを探して用意していたうちに30分近くたってしまっているのを知り、かなりあわてふためいた。NANAとCOCOが人質(?)に取られているのである。急がなきゃ、でもトレイの上にケーキがのっかっているので、RURUにボクは「丁寧に、静かに崖の下の平らなところへテレポートしてね」といった。

ごめん、待たせたね!NANA、COCO無事かい?そう声をかけようと基地の入口に近づいた時だった。中から話し声が聞こえて、思わずボクは立ち止まった。エメラルド達には、まだこの場所を教えてないし...いったいサファイアの話し相手は誰なんだと聞き耳を立てる。

それはかなり意外だった。というか、実際よく聞いてみると、サファイアの独り言だった。ちらっと中を覗くとソファーの上にサファイアがぬいぐるみを抱っこしながら座り、カーペットのところにNANAとCOCOが座って、彼女の独り言を(この場合は、愚痴?)えんえんと聞いていたのだ。

「ルビーってば本当ひどい!すぐとってくる、とかいってまだ帰ってこないし...さっきだって「お風呂はいってたら〜」とかいって...あたしはママさんが今は誰もいないはずよって言っとったから、素直にそれに従っただけだったのに。もちろん...その、ノックせずによく中を見ずに入っていっちゃったことは謝るったい。あと汚しちゃったことも。でも、なんであんなに過ぎたことをとやかく言われなきゃならんの?」

NANAとCOCOは真剣に、おとなしく聞いている。なんだかボクの変わりを二匹がしているみたいで少し申し訳ない気持ちになった。サファイアは続ける。

「ああやってあたしを怒らせたり、なんだかぐるぐると恥ずかしくさせたり、なんだか...ルビーは本当ずるいったいよ!だから、今回はNANAとCOCOをちょっと巻き込んでみたっち。あ、大丈夫!んな全くあんたたちは悪くないったい!ちょっとアイツのペースば掻き乱してやりたかったんばい!だからその、テントの中に閉じ込めたりして本当にすまんち」

ちょっとあわてふためいている彼女をみてなんだかニヤニヤとしてしまった。でも、それは次の言葉を聞いて、正反対に変わる。ボクは聞き耳を立てていたことを激しく後悔した。

「...それに...NANAとCOCOはあたしをボーマンダから守ってくれた、命の恩人たい。指示してたのはルビーだけど、あんな、おっきなポケモンに向かっていってくれた。きっと怖かったかもしれん。でも懸命に戦ってくれてたこと覚えてる。あの時のあたしは怖いって、ルビーやみんなにいっちゃって...本当、すまんち。違うよね、本当ならすぐにありがとうって言わなきゃならんかったのに...守ってくれて、ありがとうって...なのに、怖いって。本当、本当すまんち。なのにルビーは...あたしの告白も、その返事も忘れたとか、覚えてないとか...なんか、初めて聞いたときは怒ってしまったけど、今は...悲しいったい、つらいったい、苦しいったい。なんでだかよくわからないけど。あと本当は言わなくちゃならんかったお礼を言えないのも...なんだか同じくらい苦しいったい。だから、今日はルビーじゃなくて、みんなにごめん、って言いたかったと。あとRURUも!ここにはいないけど、一生懸命守ってくれたことあたしは絶対に忘れん。だから」

本当にありがとう、守ってくれてと彼女はまるで泣きそうな顔をして二匹にいった。

ボクはなんて卑怯な人間なんだろう。勝手な都合のせいで忘れたふりをしていて、それなのに一緒にいたいと願っていて。捻くれてて、歪んでいて、あまのじゃく。彼女もそこまで素直って訳じゃないけれども、本当にいい子で、純粋に一途に想ってくれているみたいで...その気持ちから逃げている自分はなんて嫌なやつなんだろう、そう思ってしまっていた。

入口の横に中からは見えないように腰掛ける。中には当分入れそうになかった。だって彼女は...泣き出していたから。ボクが、うやむやにしてしまっていることのせいで。RURUが心配そうに、ボクの顔を覗き込む。たぶんNANAやCOCOは心配そうに彼女の顔を覗き込んでいるのだろう。ボクはもう、ちらりとでさえ彼女の顔をみることができなかった。

しばらくたつとどうやら泣きつかれたみたいでソファーでそのまま眠ってしまったようだった。寝息が聞こえてくる。ボクは、やっと秘密基地に入ることができた。NANAとCOCOが駆け寄ってくる。

サファイアの寝顔を覗き込む。したまぶたが少し赤くなっていて、それは今さっきまで泣いていた証だった。いや、どうやら今も夢の中でないているのだろうか?目頭のところに涙がたまっている。たまらず、ボクは彼女に今だにあやふやにしている、あの言葉を伝える。

「サファイア、ボクも君のことが好きなんだ。小さい頃も愛らしくて、それはそれで可愛いかったけど。でも今の君もすごく好きだ。木にのぼって景色をみている君の表情とか、ボクは本当は危ないから木登りはやめてほしいんだけど。でも景色と君の笑顔が綺麗にかさなって、まるで一枚の絵みたいで。他に誰かの為にすごく頑張るところとか、きのみを選別してるときとか、バトルしてるときとか。そうやってあげていくと本当にきりがない。あの頃と同じで本質は全く変わってなくて。そう、眩しいんだよ、サファイアが。キラキラしてて。だから捻くれてて、卑怯な今のボクじゃ、面と向かって君に言えそうにない」

頬をいつの間にか涙が流れていた彼女は夢の中で、ボクは現実の中で泣いている。

「だから、今はこれだけで」

そういってボクは、彼女の目尻に優しくキスを落とし、そっとその涙を拭う。

「いつか、きっと言うから、言えるから。だからどうか」

待ってて









あとがき

いろいろやらせたらカオスになった文。ちなみ初ルサでした。おそまつ!

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あきゅろす。
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