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long novel
17話
「マツブサ...」
「アオギリ...」

ルビー、サファイア双方の目が開かれる。無理もなかった。一人はある男が"自分が殺した"と聞かされた人物で、もう一人は...自分達の目の前で消えた男だったからだ。

「なんで...二人とも生きて...」

サファイアは震えていた。あの時の悍ましさ、恐ろしさが背を伝っているのだろう。

「答えろ、どうして二人ともここにいるんだ?」

ルビーは双方を睨みつける。サファイアをさりげなく守るような体勢も忘れずに。

「何をいっているのだ。君達がオレを助けたのではないか?丁寧に車の中に閉じ込めて、宝珠を奪ってな!そして次にサキとかいうやつがエアカーのハッチを開けた。だがオレは再度アオギリに閉じ込められたのだ!ああ、あの時イナニティ様が助けて下さらなかったら...」

そう、マツブサが言う。おかしい、ルビーはそう思った。話によるなら...マツブサは、アオギリとともに、サキという何者かによってエアカーのハッチからだされたが、アオギリと自分の命を長らえさせることのできる鎧と剣をかけて戦い、死んだ、と。しかも"イナニティ様"という全く知らない人物の名前を口にしている。聞いていた話と少し違う、と。次にアオギリが口を開く。

「あなたのような人物をイナニティ様が助けるとは到底思えませんでしたがね...まあ、私はそのサキという人物に鎧と剣を授かり、バトルフロンティアに向かった...そして図鑑所持者達に敗れた...しかし、イナニティ様は私に慈悲を下さったのだ!崩壊しそうな私の手をとり、そして、生きよと」

「何いっとるばいあんたは確かにむぐっむぐ」

突然、後ろに座っていたルビーがサファイアの口を手で塞ぐ。そして、彼女にしか聞こえないように耳元で囁く。

(話しの筋は通ってる。でもおかしい。あの時消えたアオギリが嘘をついていたとも思えないし、でもいま目の前にいる二人が嘘をついているとも思えない。それに、気がついた?二人はイナニティっていう名前の人に助けられたと言っている。その人のことをボクらは全くしらない。もしかしたら...これはボクの勘なんだけど...今回のオーキド博士と図鑑所持者失踪の事件に、何か関わりがあるのかもしれない...エメラルドのことも、知ってるかも)

頭の回転の早いルビーのことである。シルバー同様瞬時に、不可解な点を察知し、サファイアが余計なことを言わないよう口を塞ぎ、そう言った。ゴールドと違う点はサファイアがどうやらわかってくれたということである。サファイアはうんと頷いた。それを合図に、ルビーはサファイアの口を塞いでいる手をずらして、彼女と会話を出来るようにする。

(なっそれなら問い詰めるったい!その方がはやか)

サファイアは小さめだが声を荒げて言う。

(...それは難しいと思う。ボクらの聞いた話とちょっと違うだけで、大筋は同じだから...つまり、ボクらのことをとても嫌っている、憎んでいることに変わりはないよ。この口ぶりじゃ)

焼け付くような、ジリジリとした視線が、マツブサから嫌というほど、彼が自ら起こしている日照りとともに降り注ぐ。また反対側はザァザァザァとまるでバケツをひっくり返したような大雨の中から、アオギリの冷たい視線が、痛いほどルビーとサファイアにあたる。

(たぶんそうったいね...それに、ここは上空ったい...あいつらは宙に浮かんでられるみたいだけど...あたしらはとろろからは下りられんったい!逃げるのは...嫌ったいけど...)

(うん、でもこの二人を野放しにしておくわけにもいかない。でも派手に戦う訳にも行かないだから...今回はとりあえずヒソヒソして次にヒソヒソ...)

うん、うん、とサファイアが頷く。こういったときの彼はなんて頼もしくてかっこいいのだろう。そう思っていた。

「どうしたのかな?秘め事はもう少し大人になってからのほうがいい。君達くらいの年齢ではすぐに暴かれてしまうから。こんなふうにね!」

そういうと、アオギリはドククラゲを、マツブサはヘルガーを繰り出した。

「!」

ルビー、サファイア二人の目がカッと開かれる。しかし、なぜか二人とも余裕の表情であった。

『二人とも、大人しく死ねぇえ!』

マツブサ、アオギリの声が揃う。ヘルガーの口から炎が、ドククラゲからは、大量の水が発射される。それらはちょうど真ん中にいたルビー達に直撃したはずだった。しかし、いない。

「な!いったいどこにいった!」
「そんな遠くへはいけないはず...どこだ!」

「あなた達の真下ですよ」

ギロッと二人が下を向くと、ルビー、サファイアの二人と目があった。そう、ルビー達はRURUを出し、テレポートをしたのだ。調度彼等がいた真下に。そしてすかさず、次の指令がサファイアによって下される。

「RURU!催眠術ったい!とろろ!つるのむちであいつらを捕らえるったい」

マジマジとキルリアの目を見てしまった、二人と二匹はぐらりと体を傾ける。そこにすかさずつるのむちが巻き付き、あっというまにぐるぐる巻にして捕らえてしまった。

「グッ...くそっ!」
「まさか、こんなにあっさりと捕まえられてしまうとは...子供だと思ってまた油断してしまいましたね...」

催眠術、そして、つるのむちによって体の自由がきかない二人。サファイアはドククラゲを、ルビーはヘルガーをそれぞれボールの中に戻し、そしてその開閉スイッチを破壊する。勿論、彼等が持っていた他のポケモン達もだ。ルビーは前の事件で学んでいたのだ。時には徹底的に非情になることが、自分達を守るということを。

「さて、これで大人しくボクらの質問に答えて頂けるようになりましたね」

「そうったい!あんたらおかしい。話と全然っむぐっむぐっ」

再度ルビーはサファイアの口を塞いだ。そして耳元で囁く。

(ボクが質問するから、キミ博士に連絡して!ちょっと離れたところで。やつらに気づかれないように!確かにこうやって捕まえたはいいけど、やっぱり警察とかに引き渡した方がいいと思うんだ)

(...わかったったい)

そういうとサファイアはすこし遠くに走って行き、ポケギアを取り出して電話をかけだした。

「さてと、とろろ、もしボクが右手をあげたら、そのつるをきつくしめて。ボクが右手を下ろし終わるまで。あ、勿論殺しちゃだめだよ。ギリギリのところを、ね」

たぶんルビーはこんな自分を見られたくなくて、サファイアを離れた場所で電話させているのであろう。これは、そう尋問という名の拷問だったからだ。アオギリが口を開く。

「少年、君にそんなことができるとは思えないね「できますよ?」

ルビーは笑みを浮かべながら、でも真剣な面持ちでいった。しかも、右手をあげて。とろろはつるをいっそうきつく巻き上げる。

「かはっ」
「うぐっ」

大の大人二人が齢14の少年にこんなことをされているなんて、誰も思わないだろう。

「....ボクはあなたたちに感謝しているところがあるんです。時には、徹底的に非情になることも大切だって」

とくに大切なものを守るためには。それは口に出しては言わなかった。念には念をこめてだ。

「ほうっそれはあの子のことかな?」

アオギリがルビーの顔色を伺う。しかし、ルビーはニッコリと笑っていた。実は内心少しだけ同様していたのは、言うまでもない。

「...さてと、では質問します。きちんと答えてくださいね?あ、ボク、人間が嘘をついているかいないかくらいならわかりますから。答えなかったら...右手をあげます。いいですね?」

ビクッと二人が震える。もうルビーは尋問のなんたるかをマスターしてしまったようだった。

「まず、あなたたちは今回のオーキド博士とエメラルドを含む図鑑所持者5人が、マサラの研究所ごと失踪、消失した事件に関わっていますか?」

「......」
「......」

右手をあげるルビー。つるがきつく巻き付く。しかも、降ろさない。ギリギリのところを締め付けられてかなり苦しいだろう。カハッとマツブサが息苦しそうに、上をむく。

「答えないと、ずっとこのままですよ?ですから、答えた方が身の為です。ボクは確かにまだ子供だから、こんな程度の尋問しかできません。でも、今彼女が電話をかけています。何処だかなんて聞かないですよね?そこに連れて行かれれば、あなたがたはたぶんもっときつい尋問を受けます。だってそうでしょう?あなたがたはグラードン・カイオーガ事件を引き起こした犯人なのですから。そしてマサラで起きた失踪事件のあとすぐに、こうしてボクらの前に現れた...関与していないなんて、言わないですよね?」

末恐ろしい子供だと誰もがそう思っただろう。

「ぐっわかった!オレがはなす!」

「とろろ、マツブサさんのつるをちょっとだけゆるめてあげて、あ、でもアオギリさんはそのままで」

「......」

アオギリはつるの締め付けになんとか堪えているようだった。

「続けて、マツブサさん」

「...イナニティ様は昨晩確かにあの研究所を襲った、そう言っていた、しかし研究所を消し去ろうとした瞬間、まばゆい光に阻まれ、5人は研究所ごと消えた、とそう聞いている...そして今朝オレ達二人を含む、何人かに指令をだした...残りの図鑑所持者達つまり、カントー、ジョウト、ホウエン、そしてシンオウ地方の図鑑所持者達を殺せ、と」

「どうして、殺せと?たかが10代の子供たちですよ?」

「計画の邪魔になる可能があるからだと言っていた。オレも詳しくは知らない」

「...あなたたちはどうしてそのイナニティって人に協力しているのですか?」

「助けて頂いたからだ!そして、オレにこの力を下さった!グラードンには及ばないものの、日照りの力を」

「...つまり、アオギリさんあなたは雨降らしの力をもらったんですね?」

「...ああ」

締め付けに堪えられなくなったのか、絞り出すような声で言った。

「じゃあ最後に...イナニティって誰です?聞いているとあなたがたのボスであることはわかりますが...知っていることをすべて教えて下さい。全部ですよ?全部」

そういうと、ルビーは右手を高くあげた。二人の締め付けが一段と強まる。

「...あのお方は...イナニティ様は...すべてを見通すお方...過去も今も、そして未来でさえ!そしてこうもおっしゃっていた...私は何も必要としてはいない、だから全てを必要とする、と!まさに神のようなお方だ!ミライ団に、イナニティ様に栄光あれ!」

マツブサは陶酔していた。そして、アオギリは勝ち誇ったように、言った。

「そして!残念だったな!ルビー!確かに貴様の尋問は素晴らしいできだった。しかし、これは我々の時間稼ぎだったのだ...お前はすべてを見通すイナニティ様が我々に下さったとある秘密兵器の存在を知らなかった!やれ!ボーマンダ!サファイアを引き裂けぇぇえぇえぇ!」

すると、ガサッガサッと森の中からボーマンダが飛び出して、真っ直ぐサファイアの方にむかっていく。彼女が気づく、目が開かれ、怯えた表情になる。バランスを崩したのか、尻餅を着く。ルビーはランニングシューズを最大にして、走りだした。後ろのほうで、とろろがどうやら主の危機を察知しつるがそちらに向かう。緩んでしまったつる。そこから逃げ出す二人。そして、叫んでいる驚いたかルビー。イナニティ様はお前達二人のトラウマをよくご存知だったのだ!と、とろろのむちの方が、ほんの少しだけ、彼女のところに早くつくことがわかり、ルビーはそれに捕まる。ビュン、とサファイアの目の前につく。そしてボーマンダの鋭い爪が、振り下ろされていく。

「かはっ...!」

そして、ルビーは幼少の時と同じように、彼女をかばい、今回は背中にでかでかと傷をつくってしまった。ああ、美しくないなあとふと思う。そして泣きそうなサファイアと目が合う。

泣かないで、泣き出さないで、お願いだから......怖いって言わないで......

「ルビーぃいぃいいぃい!」

そうサファイアの甲高い声が辺りに響いた。

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あきゅろす。
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