小説 The same sky was seen.(蛙軍曹:クルギロ) 「ふう………」 硝煙の匂いが充満し、土煙がもうもうと立ち込める中、《戦場の赤い悪魔》―――本人は不機嫌に顔を歪ませる―――ギロロは一息吐いた。 今回の作戦は、敵性宇宙人の艦隊の殲滅。 最初から自分が囮となって、戦うつもりでいた。 だから驚いたのだ、物凄く。 あの偏屈で嫌味な後輩が、自分も戦うと告げた時。 ちょっと待て。 お前は頭脳労働専門だろう!! つか、後方支援がお前の最重要任務だろうが!! 激戦区に死にに行く気か、この馬鹿者!! 悪口雑言喚き散らしても、涼しい顔で受け流すクルル。 そんなクルルを後押ししたのが、驚くなかれ、ドロロだったのだ。 「こちらスカル1。敵部隊殲滅した。確認を頼む」 『こちらナルト1。すぐ索敵するぜぇ〜』 待つ事数秒。 『敵はいないぜぇ。先輩、戻ってきて構わないぜ〜。クークックックッ………』 それを聞いて、クルルの元へと歩き出した。 直後、閃光と共に爆音が轟いた。 「…ッ!! 先輩!! 応答しろ、ギロロ先輩ッ!!」 クルルはギロロに必死に呼び掛ける。 あの男が、《戦場の赤い悪魔》であるギロロが、そう簡単にくたばる筈がない。 頭では解っているのに、クルルはそうするしか他になかった。 ヘッドホンから警告音が聞こえ始めた。 瞬時に我に返り、眼前の中空にあるモニターを睨み付ける。 モニターに映ったのは、先刻までは居なかったあり得ない数の敵。 恐らくはギロロを倒す為だけに増員しただろう事が判る。 「…チ。ステルスとアンチバリアの併用バリアかよ。ク、面白ェ。俺様も遂にヤキが回ってきたってかぁ? クークックックッ……」 己だけでは、この数に対抗出来る訳がない。だがそれは、純粋な戦闘での話だ。 敵影はまだ遠い。 現状打破を試みてみる。 忙しなくモニターを操る。 敵のマザーコンピューターを乗っ取る為に、コンソールを素早く叩く。 プログラムの羅列が物凄い早さで流れていく。 ハッキング終了の文字が出て、クルルはニヤリと笑む。 「俺様は天才だが、嫌な奴でもあるんだぜぇ〜。……ただで帰れると思うなよ…クークックックッ。あ、ポチッとな」 お決まりの台詞を言い、嫌味な笑みと共にエンターキーを押す。 これで、敵の戦力は粗方無力化した筈だ。 ついでにクルル特製の爆発プログラムも仕込んだ。 「無事でいてくれよ、先輩…」 クルルの小さな呟きが、敵の自爆音に紛れて消えていった。 その頃ギロロは、爆心地より遠く吹っ飛ばされていた。 咄嗟にシールドを展開したが、衝撃を上手く殺せなかったのだ。 おまけに通信機能が破損したらしく、作動しない。 「……クルルは無事だろうか」 黄色の嫌味な恋人を想う。 なんだかんだ言いながら、二人は恋人だった。 小隊の中では暗黙かつ公認の仲である。 クルルは戦闘向きではない。 彼はよく戦闘で傷付いた自分をサポートしてくれるけれど、自分が出来る事と言ったら戦いしかなくて。 だからこそ安全な後方に居てほしかった。 自分の傍で傷付いてほしくないから。 ふと思う。 彼―――クルルもそうなのだろうか。 自分を手当てする度に、無表情の中に何かを内包している。 それが自分を心配しての事だとすれば―――不謹慎だが、嬉しい。 激戦区であるにも関わらず、恋人の事を考えていたギロロは、遠くで起こった爆発にすかさず武器を転送し、走り出した。 爆発はクルルの居る場所に近かったから。 クルクルクルクルクル…… はっとして足を止める。 クルルの共鳴だ。 聞き間違える筈がない。 ギロギロギロギロギロ…… (無事か、クルル?) 【…! 先輩こそ。大丈夫なのかよ?】 (大した事はない。それより、先刻の爆発音は? 巻き込まれたのではあるまいな?) 【……まぁいいか。先刻のは向こうサンに、俺様特製のプレゼントが咲いただけだぜぇ〜。】 (…そうか) 【先輩……】 (ん? なんだ?) 【無事で良かった……】 (……お前もな) 二人の共鳴音を聞いて、仲間が助けに来るまで。 二人はその場に座り込んでいた。 同じ空を見ていた それは戦場とは思えない程、蒼く澄んでいた [次へ#] |