小説 At any time.(レンマギ:猫いつ) いつだって、傍に居たい。 そう思うのは、悪い事? 何時ものように社長業、学校の課題、先輩魔法使い達からの愛の鞭を受け。 いつきは事務所内の自分の机に、ぐったりと懐いていた。 「………死ねる………てか、本当に死んじゃうよ………」 事務所内には誰も居ないのだからと掠れた声で、ポツリと呟く。 と。 「社長〜…縁起でもない事言わないでくださいよ〜…」 聞き慣れた声にガバッと身を起こすと、予想通りの人物が居た。 (…そうだ、猫屋敷さん、事務所に半分住んでるんだった…!!) うっかり忘れていた。 猫を溺愛し、四神の名を持つ猫を何時も連れ歩いている、この男の事を。 「社長がいないと此処、無くなっちゃいますよ。それに、お猫様はどうなると思ってるんです!?」 これまた予想通りの台詞に、苦笑するしかない。 要するに。 彼等が必要なのは『アストラルの社長であるという肩書きを持つ、伊庭いつき』と、『レンタルマギカの事務所』なのだ。 分かっていても、少し悲しい。 涙ぐみそうになるのを堪えて、なんとか笑う。 「猫屋敷さんは、泊まり込みで原稿ですか?」 いつきの問いに、猫屋敷はゆったり微笑んで答えない。 代わりに、お茶いかがですかと逆に問われる始末。 呆然としたいつきに介さず、猫屋敷は少し熱めの緑茶と羊羮を持ってきた。 「あ、あの……」 「居なくならないでください、社長。もし、社長が居なくなったら………私、どうしたらいいのか、わからなくなってしまいます」 「猫屋敷さん………?」 それは、自分が妖精眼の持ち主だからだろうと、いつきは思う。 『伊庭司の息子』で『妖精眼の持ち主』の自分。 他に付加価値があっただろうか。 あ、『竜の名付け親』もあった。 あとは。 あと残っているのは。 目の前の陰陽師が、好きだという事だけ。 (………言えないよ………) ひっそりと溜め息を吐く。 「社長」 「はい?」 きょとりと首を傾げたいつきに、猫屋敷は何時も通りに飄々とした態度で、こう言った。 「好きです、社長」 一拍。 「僕も、猫屋敷さんや皆の事、好きですよ」 「…社長…いえ、いつき。私はいつきが好きなんです。勿論、恋愛感情で」 一拍、二拍、三拍。 「………ふえぇぇえぇ!?」 漸く事態を把握したいつきが、顔を真っ赤に染めて叫んだ。 有り得ない! だって、猫屋敷さんが、僕を好きだって言った!! こんな事、あるんだろうか? 妖精眼が見せた幻覚じゃないか? ギューッと頬をつねってみる。 ………痛い。 現実? 「………いつき。幾ら私でも、凹みます」 猫屋敷の台詞に流石のいつきも、わたわたした。 鈍いと言われている自分でも、好きな人を困らせるなんて本意ではない。 けれど。 目の前の『お猫様至上主義』陰陽師はかなり喰えない性格なのだ。 嘘か本当か判らない。 信じて、みたい。 言ってもいい、のかな。 「あの、猫屋敷さん……」 「……はい」 「僕、あの、猫屋敷さんの事、その、好き、です」 いつきは自分が真っ赤になっていると分かっていた。 全身の血液が沸騰しているみたいで、クラクラする。 「いつき」 「ひゃ、ひゃい」 「嬉しいです。愛してますよ、いつき」 「あ、愛………ッッ」 次々と爆弾を投下する猫屋敷に、いつきは気絶しそうだ。 更には、ふわりと薫る白檀香に、猫屋敷に抱き締められていると気付く。 色々、限界だった。 「い、いつき!?」 薄れる意識の中で、いつきは猫屋敷の焦る声を聞いた気がした。 意識を取り戻したいつきの傍に、幸せな顔をした猫屋敷が居て。 そんな猫屋敷の愛の言葉に、いつきがもう一度意識を失ったのは言うまでもない。 どんなときも。 貴方と一緒に居たいのです [*前へ][次へ#] |