純情乙女と冷酷男子 B
屋敷の中は何処もかしこも悪趣味な装飾に溢れていた。
舶来品と思われる絵画や壷、かとおもえば誰が書いたのかお世辞にも上手いとは言えない書や水墨画。
壁にも調度品にも下品に使われた金銀のどぎつい輝き。
サイは屋敷の中を回るにつれ、胸が悪くなりそうだった。
「……と言う感じだ。窓には全て頑丈な鍵をつけてある。」
「そのようですね」
「誰も侵入など出来はしないだろう。あんたらは無駄足だし、金造様は金の払いぞんだな。あ、女が手に入ったか、ハハハハ…」
「…………………」
サイは内心呆れた。
――こいつ…馬鹿なの?
ちょっとぐらい頑丈に施錠したぐらいで安心するってどうなんだ…
盗賊なんて上手にガラスを割って窓から侵入することなんて造作もないのに。
そう言ってやりたいところだったのだが我慢して、気分良さそうに歩き出すクロガネのあとへ黙ってついて行く事にする。
「ここら辺のドアは食糧庫や何かの倉庫ばかりだ。侵入経路になりそうな物は無い。それから、あそこが厨房で、その脇に裏口がある」
大股で歩くいかつい背中は、屋敷の奥まった方へと向かっていた。
指差す所へ目を向けると、暖簾の掛かった入り口から灯りが漏れている。
ん?…此処は…
その手前の壁にふと違和感を感じ、サイは立ち止まった。
「ここの料理は絶品だ。何せ金造様が…………おい」
「………………………」
相変わらず悪趣味な模様の壁なのだが、良く見ればそこにはまるでドアの様な形をした四角い溝があった。
「これは…」
「いや何でもない。ただの設計ミスだ。」
「設計ミス?」
「あぁ、何か作る予定だったみたいだぜ。そこの継ぎ接ぎ、金造様も滅茶苦茶不満なんだよ、美観が悪いってな。いいから、早く来いよ」
「………………………」
こんな所に設計ミスとは一体何なのだとツッコみたい所だったが、顎をしゃくって先を促し歩き出すクロガネが急にイライラし始めた様なので、サイはとりあえず従って歩き出した。
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「腹減ったからちょっと摘まみ食いしてくる」と、まったく緊張感の無い事を言い出したクロガネを置いて、サイは厨房脇の裏口から外へ出ていた。
ん?…くせ者か…
途端に人の気配を察知してクナイに手を伸ばし、サッと身構える。
すると、
「交代かい?」
鬱蒼と広がる林の中から、全く此方を見ようともせず、暢気とも感じられる声で言う男が一人。
「誰だ?」
誰何の声にゆっくりと振り返った男は、サイを見て一瞬眉をひそめたが、すぐにまた元の表情に戻ってヘラヘラと話し出した。
「……あぁ…君…木の葉の…。いやぁ、もう退屈でさぁ…。で、君が交代してくれるのかい?」
「……………………」
男はサイの額当てを見て、金造が雇った忍だと悟ったらしかった。
「………貴方はここの屋敷の人ですか」
どうも妙な感じがして、サイは油断なく男の挙動に注意しつつ問いかける。
「…オレは………」
言いかけたその時、しかしサイの背後でガタガタと音がして、男は開きかけたその口をつぐんだ。
「おいおい!そいつをしまえよ、アレは味方だ。」
慌てて屋敷から出てきたクロガネが、激しく手を振りながら武器を構えるサイの前へと躍り出た。
味方…ね…
サイはまだ何か引っ掛かりを感じつつも、一先ずクナイをホルダーに収めた。
クロガネはあからさまにほっとして胸を撫で下ろし、大きな溜め息をついた。
「はぁ…ったく…」
頭をガシガシとかきむしり、きっと林の中の男を睨み付け、大きな声を張り上げる。
「お前!!何しでかしたんだ!」
「いや、別に何もしてないですよ。ただ見張りをしていただけですって…」
苛ついているクロガネに向かって男は肩を竦め、ヤレヤレと言う表情を浮かべつつゆっくりと歩いてくると、上着の裾でゴシゴシと手のひらを擦り、ニッと笑ってその手をサイの前に差し出した。
「モクゾウだ。ここじゃ新入りだけど…一応君の仲間だよ。よろしく」
「…………サイと言います」
サイは、ニコニコと人の良さそうな笑顔を浮かべるモクゾウと言う男の顔をじっと見つめた。
どうもおかしい。
何か引っ掛かるんだよな…
だけどそれが何なのか解るようで解らない。
なんだろう…こいつ。
この…気……
「ほら、握手」
「…………………」
サイは男の黒い目を探るように見返しながら、ぐっと差し出された手を軽く握り返した。
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