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純情乙女と冷酷男子 A
「で、お前さん達が木の葉から派遣された忍なんだね?」

いかにも成金趣味な大広間に案内されたサイと桜花は、でっぷりと肥太った依頼主の、じろじろと値踏みする不快な視線にさらされていた。

「…はい。サイと言います」
「桜花と申します」

丁寧に頭を下げる桜花とは対照的に、無表情に自分を見返すサイを見て、依頼主は気に入らないと言うように一瞬表情を歪めた。

「ウォっホン…ワシが法外な報酬額でお前さん達の里に仕事を依頼した金造だ。」

わざとらしい咳払いをしつつ、横柄な言い方で名乗る金造は、まるで金持ちは偉いと言わんがばかりに尊大さが滲み出ていた。
桜花は目の前の男を鼻持ちならないと思うと同時に、きっと普段から金に物言わせ極上の美女ばかりはべらせているのだろうと、ますます自分では役不足なのではないかと不安になるのだった。
が、その心配は杞憂に終わる…

「して…桜花と言ったか、どれ、良く顔を見せてみなさい」


金造は本題の屋敷の警備についてはそっちのけで、早々と桜花に興味を示した。

「……はい」

桜花は緊張した面持ちで俯き加減だった顔を上げた。
恥ずかしくて目は見れず、二重顎の辺りに視線を止める…

「ほほぅ…立ってみなさい」
「………はい」

言われるがままにその場へ立ち上がると、金造は顔だけではなく全身を舐め回すように見回して、ポンと手を打ったかと思うといやらしく揉み手をし始めた。

――何だか気持ち悪い…

まるで忍服の下まで見透かされているみたいで、桜花は居心地悪かった。
薄暗い地下にこもり、いつも同じメンツで作業している桜花にとって、あからさまに器量を値踏みする視線など無縁だったのだ。

「なかなか良いじゃないか、忍の女も捨てたもんじゃないな」
お眼鏡には叶ったようで、ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべた金造は、うんうんと一人満足げに頷いた。
頭の中にはあられもない妄想が繰り広げられているに違いない。

「すみませんが…」

その様子を黙って見ていたサイが、淡々とした口調で金造のスケベな思考に割って入った。「日が暮れる前に屋敷の警備について打ちあわせしたいのですが」
「あ?あぁ…そっそうだったな。」

慌てて取り繕う金造をサイは冷たい目で穴が開くほど見つめた。

「えぇと…」

居心地悪そうに目を泳がせた金造は、サイの視線を避けるように首を巡らせて、部屋の隅で黙って控えていた一人の男に目を止めた。

「おぉ、そこにいたのかクロガネ。ちょっとこの…えぇと…」
「サイです」
「そうだったか。このサイとやらに屋敷の中と周りを案内してやれ」

早く厄介払いしたいと言う態度で、クロガネと言う男にサイを連れていくよう身振りで示す。

「承知致しました。どうぞ此方へ」
「あ、待って下さい!」

ガタイが良く、見るからに用心棒的な人相のクロガネに連れられ、サイが部屋を出ようとしているのを見て、桜花も慌てて後を追おうとした。
ところが、

「あ〜待て待て、お前さんはここへ残ってもらうよ」
「えっ!?…きゃ…っ」

太い指が手首を掴み、力任せに引き寄せた。

「う…っ…」

バランスを崩して倒れ込んだ先は、ブヨブヨと弛んだ金造の腹と胸…
「警備はうちの用心棒とお前さんの連れに任せておけ。」
「それは…っ」

桜花は抗議の声をあげようとしたが、金造がそれを遮った。

「このところ族を警戒して街の女達を屋敷に呼べなくてな…難儀していたのだよ」
「はぁ…っ?」

唖然とする桜花を今やしっかりと抱き締めた金造は、更に身勝手な事を言い募る。

「その点、素性のしっかりした忍の里の女なら安心だろうと思ってな、だから綺麗なくの一を一人寄越せと条件をつけた。」
「そんな!くの一は花街の女とは違います!そんな事で派遣されたとなれば、火影様も黙っては…」
「いやいや、綱手はワシに頭が上がらんよ。その昔、ワシの賭場でひと悶着起こして店を一軒駄目にしたんだからなぁ。」

そんな…綱手さまぁ…

桜花は絶望した。
こんな事があって良いのだろうかと、人身御供に差し出された我が身を憂いだ。

「それにたんまりコレも積んだことだしな」
「ちょっと…離してください!!やだ…」

桜花は下品な手付きで大金を積んだ事を示す金造から、なんとか離れようとするのだが、分厚い肉に阻まれてなかなか逃げ出せなかった。

――もう!なんて事!火影様は私を売ったの!?…ひどい…

桜花は一層の事泣いてしまいたい衝動に駈られた。
しかしここで惨めに泣いてしまったら、このスケベ親父に付け入られてなし崩しに変なことをされるかもしれない。

どうしよう、どうしよう…

その言葉が頭の中をグルグルと駆け巡る。
と同時に、此処へ来る途中にサイが言っていた言葉までもが思い出された。

「何かあっても自分で何とかしてよね。」

あぁもぅ…いやっ

本当に今すぐ里へ逃げ帰りたい、そして火影に猛烈抗議したい…
心底そう思う桜花だった…

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あきゅろす。
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