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純情乙女と冷酷男子 @

「はぁ…どうしよう…」

桜花は不安そうな顔で呟きながら、とぼとぼと山道を歩いていた。

「……緊張する…」

今回桜花は里外れに住む土地成金からの依頼で、屋敷の警備を任されているのだが…

「…私で良いのでしょうか…」

普段暗号解析を主な仕事としている桜花なのだが、こうして里外の任務に就くなど今まで無かったことで、しかも頭では無く体力仕事と来ては戸惑うばかりだった。

「まだ言ってるの?仕方無いよ、人手の無いところに君が運悪くあの場に来てしまったんだから。」

緊張で冷たくなった指先を握りしめ、深呼吸しながらなんとか落ち着こうとする桜花に向かって淡々と言ってのけるのは、今回一緒に任務を請け負った上忍。
本来表には出ない組織の中で汚れ仕事ばかりこなしてきたその人は、これまで桜花の周りにはあまりいないタイプのようだった。

「は…はぁ…私…ただ報告書を提出しにいっただけで…普段は暗号解析とか頭脳労働ばかりなので、勤まるのかどうか…」

ほんの数時間前、火影から任されていた暗号解析の報告書を提出しようと執務室に出向いたのが運のつきだった。
偏屈な金持ちに屋敷の警備を依頼され、人選中のその場へ足を踏み入れた桜花は、いきなり指差され「もう一人はお前で決まりだ」と、任命されてしまったのだった。
何が何だかさっぱりわからずその場に固まる桜花だったが、直ぐに出発するようにと言われ、追いたてられるようにして里の外へと出されてしまったのだった。

「君だって忍だろ、屋敷の警備ぐらい出来なくてどうするのさ。依頼主の所の用心棒を上手く使えば良いんだし。どうせ金目当ての盗賊にでも目をつけられたんだろ、大した事無いさ」
「はぁ…最近不審者が屋敷の周りを彷徨いてる…でしたっけ…」

サイは事も無げに言うけれど、盗賊の中には良く組織された軍隊並みの奴等もいるのだし…

――やっぱり私…へましちゃったらどうしよう…お金持ちだもの、きっと里が受け取る報酬もかなりなんじゃ…

そう考えれば考えるほど、桜花の不安は募るばかりだった。
それなのに…

「クスッ…」

悩みまくる桜花の隣で、いきなりサイが小さく笑い声をたてた。
ちょっと吃驚して桜花が隣を振り仰ぐと、サイは口元に笑みを浮かべながら此方を見ていた。

「な…なんですか…」
「いや、馬鹿馬鹿しいなと思ってさ」

唐突に笑われ、しかも馬鹿馬鹿しい等と言われて少しムッとした様で唇を尖らせる桜花に、サイは丸っきり悪びれる様子もなく肩を竦めて見せた。

「安心して。君は戦闘要員じゃないから。」
「は…えっ?」
「一人は綺麗なくの一をよこせって言う馬鹿馬鹿しい条件を満たすためだけに、君は選ばれた様なものだから」
「えっ?…え〜っ?!」

桜花は驚きのあまり急な坂道の途中で立ち止まっていた。
衝撃的すぎる選出理由に血圧が急上昇だ。

「そっ、そそそそんなっ…そんな理由でっ…」

体力を望まれるのも困るが、器量の良さを求められるのも大問題だった。

「…立ち止まらないでよ」
「あ…ご…御免なさい…」

早く歩けとサイに促され、桜花は慌てて坂をかけ上がる。
サイは横に並んだ桜花をちらっと見てから、そのあわてふためく様子に納得が行かないと言う顔をした。

「なんで慌てるのさ。戦闘要員としての働きを期待されてる訳じゃないんだから、良かったじゃないか。」
「でも!私、全っぜん綺麗じゃありませんからっ!これは依頼の条件を満たしてないと思いますっ!あ〜大変だぁ…」

ブツブツと混乱して何かを呟く桜花を、暫く冷めた目で見ていたサイは、やがて桜花を更に混乱させる事を口にするのだった。

「心配無いよ、君は十分条件を満たしてるじゃないか。僕は綺麗だと思うけど」
「……!!」

サラッと言ってのけるクールな横顔を見て絶句した桜花の歩みは、衝撃を受けて再び止まっていた。

――きっ…綺麗って…今、綺麗って言った!?

ボッと火が着いたように桜花の顔は真っ赤になった。

「だから…立ち止まらないでって言ったじゃない。」
「あっ…御免なさい!」
「それから、気を付けてよね。君は『綺麗さ』を求められてるわけだから、セクハラってやつにあうかもしれないからって、シズネさんが言ってたから」
「はぁっ!?シっ…シズネさん!?セクハラって!?」
「一々大袈裟だよ。何かあっても自分で何とかしてよね、君も一応忍なんだから。僕は屋敷の警備で忙しいんだからさ」
「えぇぇぇっ!?」
「ほら、屋敷が見えてきた」
「あぁぁぁ…」

自分に課せられた真の役割を知ってしまった桜花は、目の前に見えてきた大きなお屋敷の門をくぐる頃には、赤くなった顔もすっかり青ざめ、いますぐにでも任務放棄して逃げ帰りたくなっていた。

――あぁ…誰か助けて…

「ほら、行くよ」

しかし逃げる事など許さないサイの手に腕をがっちりと取られ、無情にも任地へ足を踏み入れるのだった…

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あきゅろす。
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