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闇の先には
闇の先には L←オリキャラ設定激しいですm(__)m


「瑠璃、怪我はないか」


やすやすと懐剣を奪い取り、そのまま翡翠の細腕をグイと引いて入り口付近へと遠ざけたネジは、
眠る桃香を身を呈して護ろうとしている瑠璃に向かって、低く声をかけた。


「は、はい......私も桃香様も無事でございます。」

答えて胸をなでおろした瑠璃は、ネジが手にしている懐剣の切っ先が鈍く光るのを見、ブルリと身震いした。

狂気に取りつかれた今の翡翠の力は、か弱い女のそれではなく、あのまま襲い掛かられてはどうなっていたことか.......

今更ながら恐ろしさで体が小刻みに震えて仕方がなかった。


――ダメ.....みっともなく震えたりしちゃ....



自分の意思とは無関係に湧き起こる体の震えを何とかおさめようと、瑠璃は『ふ〜っ』と深く息をついた。

けれど、

「何をするのじゃ!早ようそれを返しや!」

突如響く金切り声に、ビクッと肩を震わせる。

見れば、まるでずるがしこい蛇のような目が、自分たちを護るように立つ主をじっと睨みつけていた。


――なんと禍々しく.....恐ろしい....


自分の持ちえない何かを内に秘めた者同士の睨み合い。
瑠璃は震える両の掌を握りしめ、目の前の光景をただ見守るしかなかった。











「おのれぇっ....なぜ妾の邪魔をするのじゃネジぃっ...」


怒りのあまり喰いしばった歯の根から絞り出されるざらつた声音は、
聞くものをその場に凍りつかせるほどに邪悪さを孕んでいた。



「愚かな女だ」


そう吐き捨て、冷え冷えとした目で見下ろすネジに向かい、今にも飛び掛からんばかりの翡翠の目は、
怒りが増すほどにより一層禍々しくぎらつき始める。


「....っ、なんと無礼な!」

ギリと歯ぎしりする歪んだ顔。


「もう止めるんだ翡翠。あきらめろ、何をしたところで俺はお前の思い通りにはならん。」



この異常な状況にも関わらず、ひどく冷静なネジの声が、翡翠の感情を逆なでする。

「おのれっ....この....」

可愛さ余って憎さ百倍、忌々しげに口を開きかけた翡翠を、しかしネジが冷たく遮った。


「黙れ、桃香に仇なした時点でお前は俺にとっての敵でしかない」

「な...何を...」



想いを寄せる相手に面と向かって『敵でしかない』と言われ、
狂気に陥った翡翠と言えど流石に怯んだのか、一瞬顔色が変わった。
僅かに狼狽の浮かぶその顔に、ジワリと汗が滲む。


だがそんな事は気にも留めず、さらにネジはにべもなく言い放った。



「さっさと術を解け」











さもなくばお前を殺す。








言外のその言葉を、翡翠へと注がれるネジの視線が累々と物語っていた。

どんなに愚鈍な小者であっても、もうこれ以上この男を怒らせれば命を落とすことになると感ずるであろう程の、静かに燃え盛る激しい怒り。


「早くしろ」


短い命令とともに訪れる、重い沈黙。


それを破ったのは最後の足掻きか、身の程知らずな翡翠の破滅を招く言葉だった。


「ふん...術とは何のことじゃ、そんなもの掛けておらぬわ、戯けが。」


挑発的な言葉を投げつけ、ツンと顎を反らし、自分を見据える冷え冷えとした視線から逃れる。

が、ネジは見逃さなかった。
翡翠が顔を背けるその時に、ちらりと背後を盗み見て、にたりと口の端を釣り上げた事を。

どうやってあの女の息の根を止めてやろうか.....
この期に及んでそんな邪な思考が見て取れる、異常な目つきを....



ネジはその視線を遮るかのように、スッと音もなく足を進めた。


「本当に愚かな女だな」


蔑む声音に、ツンと顎を反らし取り澄ました翡翠の頬が小さくゆがむ。
何か返そうとする唇は、だが何の言葉も継ぐことはできなかった。


「呆けるな。お前たち一族の能力を使ったのだろう?あの『夢忍び』とか言う力を」


言いながら、さらに近づいて行くその手に握られた懐剣は、まっすぐ前へと向けられている。
目の前の翡翠へと。
全身からみなぎる殺気は、もはや隠そうともしていなかった。




「ひっ....」



短く息をのむ音が辺りに響いた。



鈍く光る切っ先が自分へと向けられていることに驚愕し、目を見開いた翡翠の呼吸は乱れ、震えていた。
もはや隠しようの無い恐怖が、桃香憎し一色だった脳髄をじわじわと支配する。




「ざっ..戯言を抜かしておらずに、早よう妾の懐剣を返すのじゃ、さもなくば....」


「さもなくば何だ?」


ネジはふんと鼻を鳴らして尊大に言い放ち、どうした、怖いのかと嘲った。

恐怖を滲ませた目で自分を見上げ、じりじりと這いずり後ずさりする翡翠の様子を冷酷な目で見据え、意地悪く笑(え)む。




「術を解かなければお前の息の根を止めるまでだ。」



抑揚のない声ではっきりと告げられたそれは、紛れもない死の宣告。



もはや翡翠に選択の余地は残されて等いなかった。






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あきゅろす。
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