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誓いの日
誓いの日 D

結局…

奴らのお節介に押し切られ、昔馴染みの忍達と話し込むヒアシ様に断りを入れ、退席する事になった。
一応主役である筈の自分達が、二人揃って宴席を後にしてしまうのはどうかと思いはしたが…
あの場に残ると言い張っても、奴らのくだらん妄想に火を着けるだけだと判断した。

『早く行けよ。俺達適当にやってるからよ。新妻待たせちゃ悪いだろ』

ニヤリとしたキバの言葉に、皆同じくニヤニヤと頷きながら何を考えていたのか、想像しただけで鬱陶しい。
とは言え…
奴らなりの気遣いではあるのだろう。
有り難いと言えば有り難い。
桃香はちゃんと休んでいるだろうかと気になっていたのだが、流石にあの席で白眼で探るわけにも行かない。
正直、間延びした酒宴の席から解放されて助かった。

「桃香…」

春を連想させるその名を口にすれば、胸がざわざわと妖しくざわめき出し、己が身のあまりの単純さに苦笑した。
あれは直ぐに無理をする所がある。
今日のことで、またおかしな気を回しているのではないか。
ゆっくり休ませるようにと、側仕えの者には伝えてはあるのだが…

宴が始まって早々に酒の匂いに酔ったのか、気分が悪そうにし始めていたことに気付いていた。
だが、何としても気付かれまいとあれなりに気負っているのも解っていた。
だから、日向の人間になるという事に桃香自信並々ならぬ決意をしている以上、ある程度尊重してやろうと素知らぬ振りをしていたのだ。
しかし…
あれ以上知らぬ振りをしているのは俺自身の限界だった。
いくら作り笑顔を浮かべていても次第に血の気を失って行く頬、俯き目を閉じた横顔は痛々しくて見ていられなかった。
まったくこうも一人の女に過保護になってしまうとは、自分でも想像したこともない。
そもそも女に気を取られるなど、くだらんことと思っていたのに…だ。
「ふん…」
再び苦笑が込み上げる。
俺の正気を奪ったのだ、桃香には一生をかけて償って貰うとしようか。
俺の側を離れることは決して許さない。
それはあのたおやかな身だけではなく、見ていて歯がゆくなるほどに繊細な心までもだ。
誰の所有物となったのか痛いほど思い知らせてやろう。
今日この日よりあれの全てが俺のものになるのだ。

「…所有物…か…」

傲慢にも聞こえるその言葉を呟くと、思わず残酷な笑みが口元を歪めてしまうのは、俺の生来持っている心の奥底の暗い部分のせいなのだろうか。
でもその思いは紛れもない本心、あれの全てに印を刻みつけて雁字搦めに所有したい…
そんな残酷な思考がいつも、頭の中に存在している。

まぁ…
なんだかんだと意地の悪い事を考えてみた所で、自分こそがあれの全てに惹きつけられ、支配されてしまっているのだが。
愛情と言うものの麻薬のように甘美な作用に、もうすっかり馴染んでしまっている…



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